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短編
禁忌 序(♀アレ)
その雪国には女しか居ない。
人間の世界では雪女と呼ばれる女、寿命は限りなく長い。
女達は誰の力も借りずに何年かに一度一人の子を産む。
産まれた子は全て女である。
しかし例外はある、男と交わった女が産んだ子は、男の性質のみを受け継いだ男児、それも残忍で凶悪な性格であることが極めて多い。
かつて産まれた男児は国の女を何人も殺し、男児を産んだ女は長くは生きられない。

そんな事態が起きないよう、
男と交わらないこと、これを掟とし、女達は生活していた。

ある時、一人の女が子を産んだ。
それが始まり。
産まれたのは女児と禁忌の存在である男児。
女は掟を破り男と密通していたのだ。
女は双子を連れて国を出て行くと言ったが長老は許さなかった。
男児の処分を女の親友に命じ、親友は泣く泣く男児を崖から放り投げる。

女は寿命を待たずにその後ショックから自殺した。


男児は理解していた、産まれる前から目も見え耳も聞こえている。

「──くだらねえ、」

国の女を皆殺しにする、それが最初の目的だった。
自分を捨てた故郷への復讐。

盗賊に拾われハレルヤという名前を与えられる。
名前の意味は解らなかったがそれなりに気に入っていた。
戦い方を覚え、血の色と味を覚える。
いつか国の女をこの赤い色に染めることが何より楽しみだった。

しかしやっと故郷を見付けたが国の女は皆薄暗く死んでいるかのようなものばかりでハレルヤは殺す気が失せた。
こんなくだらない国のことだけを考え、生きていたのが馬鹿らしくなった。

吹雪の中、足は自然と墓場へと向かう。
母の墓場。
そこに居た女に、ハレルヤは見覚えがあった。
ハレルヤを放り投げた女、確か名をスメラギ。
ハレルヤに気付いたスメラギは最初は怯えていたが、ハレルヤがあの時捨てた男児の成長した姿だと気付くと泣き出した。
「私を、私達を殺しに来たんでしょう、ごめんなさいね、当然のことよね、」
殺す価値も無い、
復讐は始まる前に終わったのだ。
ハレルヤは口を開く事なくスメラギに背を向ける。
もう此処には用は無い、復讐の為に生きていたがそれももう無くなった。今は何の為に生きればいいのかわからない、

「貴方には妹が居るの、双子の…っ」

その言葉に立ち止まる。

「名前は、アレルヤ、」

闇しか知らないハレルヤにとって、初めての光だった。
そして、運命、そんな陳腐な言葉を感じずにはいられない。
名付け親は別々だが同じ名前になった、これが運命でなくて何なのか。

新たな目的が出来た。
妹を、探す。









兄と名乗るつもりは最初から無かった。
ならば何故探していたのか、見てみたかっただけなのかもしれない。
双子の妹、を。

「あの…貴方は…?」

やっと見付けた妹。
人間の世界に迷い込み、捕えられていたところを助けることが出来たが、当然妹は自分のことを知らない。

「助けてくれて有難うございました…、あの、お名前を伺ってもよろしいですか?」

妹は、遠い昔の記憶にある母の顔に瓜二つだ。

自分の目的は妹を見付けること、それだけだ。
目的は達した、もう此処には用は無いはず、だ、

「…ハレルヤ、」

名乗る必要なんか無かったはずなのに、

「ハレル…ヤ…、」

同じ名前に瞳を見開いた妹。

「お前を、故郷へ帰してやる、」
妹はこんな所に居てはいけない。

ハレルヤはアレルヤを故郷の雪国まで送り、今度こそ最後の別れだと心に決めた。

それから半年後、アレルヤはハレルヤの前に現れた。
突然の再会にハレルヤは動揺する。
何故、

「お久しぶりです、ハレルヤさん、」
「…何で此処に居る、」
アレルヤは半年前に出会った時よりも笑顔に満ちていた。
「僕、故郷でスメラギさん…母の知り合いに聞いたんです、僕には双子の兄が居るって、」
「、」
「だから、兄を探す旅に出たんですけど…、」
ドクン、
胸が大袈裟な程に鳴る。
「でも手掛かりなんて何も無くて、名前すらわからないんです」
「…そう、か、」
少し、ハレルヤは安堵した。

汚れを知らない可憐な妹、自分とは似ても似つかない。
ハレルヤは怖かったのかもしれない、殺しを繰り返し血で汚れた自分が兄だと知られることが。

アレルヤは銀色の瞳を輝かせハレルヤを見上げた。

「あの、ハレルヤさん、これから…ハレルヤさんについて行ってもいいですか?」
「っ!?」
「兄は貴方と近い種族だと思うんです、ハレルヤさんについて行けば兄を見つけることが出来るのかもしれないと思って…、迷惑はかけません!お願いします!」
アレルヤのまさかの申し出にハレルヤは顔を引き攣らせ言葉を無くしていた。
そんなものはさっさと断れ、断れ、断れ…!
頭の中で繰り返すが、目を潤ませ見上げてくるアレルヤに、ハレルヤは頷いてしまった。

「有難うございます!」
「…死んでも知らねえぞ、」
「大丈夫です、僕こう見えても頑丈で、」

嬉しそうに可憐な笑顔を浮かべるアレルヤに思わず瞳を奪われた。
雪のように美しく純真なその笑顔は、ハレルヤの闇を消し去っていく。

双子だが今は他人として出会った二人は、宛ても無い旅に出る。









つづく

2009 6 16













幽白の飛影雪菜パロ。
ちと設定いじり。
原作知らなきゃよくわからんですよね、でも書きたかった!
設定が複雑でなんかただの説明みたいな文になったが、次からは恋愛的絡みをさせたい…な。

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あきゅろす。
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