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短編
身代わり(♀アレ/ディランディ兄弟)
好きです、と一言伝えることも出来ないまま、彼は留学の為海外へ行ってしまった。
永遠の別れなわけでもないのに涙が溢れ頬を伝う。
「俺と付き合ってみないか、」
彼が海外へ行ってから数日、彼の弟がそんな言葉を向けてきた。
「兄さんのこと好きだったのは知ってる、俺はお前から兄さんを忘れさせる自信がある」
彼のことを忘れるつもりなんて無かった。
ただ、彼と本当にそっくりな弟の貴方に、僕は甘えることにした。
忘れるつもりなんて無い、忘れない為に貴方と付き合うんだ。

でもその考えは失敗だった。

2年後、妊娠を告げると貴方はあっさりと僕を捨てた。
妊娠したのも不覚だったが何より貴方がそんな薄情な人間だったことに気付けなかったのが悔しい。
でもそれも仕方ないかもしれない、僕は貴方じゃなくて彼を想いながら貴方を見ていたから、貴方のことなんか何一つわかっていなかった。

けれど自分の中に宿った命は大切にしたい。それが好きでもない人の子供でも、産みたい。
そう決意して貴方の元を去った。

彼と再会したのは、その一ヶ月後。
「久しぶり、アレルヤ、」
「…ニール…!」
突然の来訪。
「いつ…帰ったの?」
「この前だ、悪かったな、連絡も無しにいきなり来て」
「いいんです、…お帰りなさい、ニール、」
会えたことに心から嬉しいと思った。
沢山話を聞いて沢山話をして、ああ、僕はやっぱり彼が大好きなんだと再認識した。
だってこんな楽しい気持ち、彼以外の人とじゃ味わえない。
「ライルとは…うまくいってるか?」
短い沈黙の後、彼は静かに言った。
今思い出したくないことだった。
「…別れました、」
「そうだったのか…、」
また沈黙。
本当は貴方がずっと好きだったんです、その一言が出てこない。
せっかくまた会えたのに、
「…アレルヤ、」
手を、そっと握られた。
「俺は、ずっとアレルヤのことが好きだった、今も好きなんだ」
「…うそ、」
聞き間違いではないだろうか。
目を見開いて顔を上げると真剣な表情の彼、
「好きだアレルヤ、」
「ニール…、」
馬鹿みたい、僕達最初から両想いだったなんて。
「有難う…ございます…、」
嬉しくて涙が滲む。
けれど、もう手遅れだ。
「アレルヤ?」
「嬉しいです、本当に…、でも、駄目なんです、」
「どうしてだ、」
彼の顔を見れない。
もっと早く、両想いだと気付きたかった。
「…妊娠してるんです、」
「…まさか…ライルの!?」
「…」
「ライルは知ってるのか、アレルヤが妊娠してること」
「言いました、でも…、別れを告げられました」
「あいつ…ッ!!」
ああ彼の顔が見れない。
俯いた視界に見えた、彼の握った拳。
「許せない、アレルヤ、あいつにちゃんと話を」
「いいんです…」
「けど、」
「いいんです…!」
「アレルヤッ!」
「っ、」
両肩を強く掴まれ、青い瞳を恐る恐る見上げる。
彼は、とても哀しそうな顔をしていた。
「…ニールッ、」
「何が、いいんだよ、」「…」
「アレルヤ…、」
肩を掴んでいた手はゆっくりと背中へ回され、僕は抱きしめられた。
彼の、匂い、温もり、
ずっと欲しかったものの温かさに、涙が滲んだ。
「…好きだ、アレルヤ、お前が大切なんだ、大切にしたい、」
「…」
「ライルがお前を傷付けたのは本当にすまないと思ってる、」
「もう、本当にいいんです…ライルのことは…、」
「ッアレルヤ、俺が、俺が…お前を幸せにする、子供も俺が父親になってやる、」
「…本当、に?」
「誓うよ、」
「…嬉しい、」
視界は涙で歪み、彼の顔さえもよく見えない。
これ以上に嬉しいことはないよ、僕は彼の首に腕を回し、その耳元で小さく囁いた。
(本当は、僕も、ずっと前から、あなたが、好きだった、)
やっと伝えることが出来た真実に、僕はただ泣いた。





「よお、元気か、」
彼との結婚も決まり、幸せでいっぱいだった僕の所に現れた、貴方に僕は恐怖を感じた。
「今更…何ですか、」
「何だよ冷たいな、まあとりあえず中入れてくれ」
「っ駄目です!」
無理に上がろうとする貴方を止めると不機嫌そうな顔で見下ろされる。
いきなり、今更何なんだ。
今は彼は外出中で居ないのだ、早く追い返さなければ。
「…今日は、帰ってください、」
「この前さあ、兄さんにぶん殴られてさあ、説教された」
そう言われよく見てみると、貴方の口端は少し切れて腫れている。
「兄さんと結婚すんだって?」
「…」
「その結婚、やめろ」
「っは…、何、を、」
「俺とより戻そうぜ」
ふざけているんだろうか。
貴方は、僕が彼を好きなことを知っている。それを知っていて付き合えと言ったりあっさり捨てたり、本当に何を考えているのかわからない。
「アレルヤー、」
「…帰ってください、」
「子供いつ生まれんだっけ?名前考えないとなあ、」
「帰ってください!」
「おっ、」
無理矢理に追い返し、ドアの鍵を閉める。
貴方はドアの向こうでまだ何かを言っている。
「アレルヤ、俺さあ、考えたんだ、妊娠したって聞いたときはもう要らねえって思ったけど、兄さんと結婚するって聞いたときには、すっげー苛々したんだよ、」
「…」
「何だろうな、お前が兄さんを見てるのが嫌なんだ、」
僕はドアに背を預けて貴方の言葉を聞いていた。
まるで子供が話しているような、勝手な内容だ。
「また俺の女になれよ、つーか、俺の女にする」
「…、」
ぞく、背筋が凍る。
ドア越しのはずなのに耳元で囁かれたように近く、重く聞こえた。
「また来るよ、じゃあな、」
遠くなる足音。
一気に力が抜けてズルズルとそのまましゃがみ込み、震える手で自分の身体を抱きしめる。

僕が、悪い。

彼が居なくなったのが寂しいからと言って最初に貴方に甘えたのが駄目だったんだ、
それがこんな形で罰がくるなんて、
「早く帰って来て…ニールッ、」








おわり

2009 6 7











自分の手の中にあるときはつまらないが、人のものになった途端にやっぱり良く見えてしまう、ライルはそんなタイプ。
子供が一番可哀相だな。


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