短編 なんて悲劇的でしょうか(♀アレ/+ライル) 哀しみが消えることなんて無い。 どうせならば一緒に死んでしまいたかった。 突然の婚約者の死はアレルヤを絶望へと突き落とす。 「…ニールっ、」 結婚直前だった。 道路に飛び出した子供を庇い、彼は死んだ。 あれほど泣いたのに涙はボロボロと流れて頬を濡らす。彼の家族に慰められながら、アレルヤは唇を噛み締めた。 「…っ!?」 彼の葬式で出会った彼の弟にアレルヤは驚愕する。 弟がいたなんて聞いていなかったしそれも双子だなんて、 「あんたが心配だ、家まで送るよ、」 彼にそっくりな彼の弟、ライルはそう言って優しくアレルヤの肩を抱き、車の助手席へと誘導する。 声すらもそっくりだ、アレルヤはまた涙が溢れてきた。 「死者のことはあまり哀しみ過ぎるとだめらしいぜ、」 「…」 「その人の想いが死者を縛り付けてしまうんだと」 「…貴方は、哀しくないんですか、」 「哀しいよ、」 その割にはあまりにも軽い口調だ。哀しんでるようにも見えなかった。 「…ずっと会ってなかったから、実感が、湧かないんだ、」 「…」 アレルヤはなにも言わなかった。 その後必要以上の会話はなく、車はアレルヤの自宅へと到着する。 降りようとした時、肩を掴まれ止められた。 「…あの、」 「アレルヤ、だっけ、」 「…なんですか、」 ムッとして言葉を返す。ライルは小さく笑い顔を近付けた。 「慰めてやろうか、」 「え…」 何を言っているのか解っているのだろうか、 「慰めって…」 「抱いてやろうか、ってこと」 「ふざけないで下さい!!」 こんな時に何を馬鹿な。 声を上げるのと同時にアレルヤはライルの頬を打つ。渇いた音は車内だけに響いた。 「いてー、カリカリすんなよ、」 「っ送ってくれて有難うございました、それじゃあ失礼します、」 「待てよ、」 今度は差し出されたメモ用紙、それには携帯の電話番号が書いてある。 「俺の番号、」 「…要りません、」 「まあ話聞けよ、アレルヤ、」 「気安く呼ばないで下さい…!」 もう印象は最悪だ。 同じ顔をしているのにこんなにも違うなんて。 それにもっと最悪なのは、ライルは、既婚者である。 彼の左手の薬指には指輪が嵌めてあることが何よりの証拠。 「貴方には、奥さんがいるんでしょう、最低ですね、」 「おいおい、別に俺はお前と浮気しようなんて思ってねえぜ、兄さんの婚約者ってことは俺にとっては姉だろ?哀しんでる姉を助けるのは当然だ、俺だって哀しいし、これは助け合いだ、浮気でも不倫でもない」 「いい加減に…っ!」 「、」 言葉の続きは唇によって塞がれる。 一瞬何が起こったのか解らずオッドアイが揺れた。 キスをされている、と理解したと同時にライルを突き飛ばしアレルヤは車から飛び出した。 残された静寂はライルを孤独にする。 「…俺だって、哀しいよ、」 慰めて欲しかったのは自分の方だ。 バタバタと駆け、逃げ込むように家に入り乱暴にドアを閉める。 途端にアレルヤの瞳からは涙が溢れ出、アレルヤはズルズルと膝をついた。 「…っさいてい…!」 彼と同じ顔、それだけでもう最悪だと思った。 慰めてほしいのは、確かだけれど。 おわり 2009 5 31 ・ライルは、妻でも家族でもなく一目見て気に入ってしまったアレルヤに慰めてもらいたい。 ・軽く振る舞ってるのは強がり。 [*前][次#] |