短編 君が笑ってくれるなら僕は悪にでもなる 寒さに震える双子を冷たい目で見下ろし通り過ぎていく汚い大人達。 こんな奴らに期待なんかしていない。 「アレルヤ、大丈夫か、」 「さむ、い、」 がたがたと震えるアレルヤを、細い腕で抱き寄せる。自分の温もりを少しでもわけてあげられるように。 道の隅で拾ったタオルだかシーツだかわからないボロボロの布で双子は寒さを凌いでいたが、穴だらけのそれはあまり役には立っていなかった。しかし無いよりはマシだ。 腹も減った、食うものも金もない、 「あらあら、可哀相に、」 上から女の声がした。 顔を上げると高そうなごわごわのコートを着た女が双子を見下ろしている。 その隣には眼鏡をかけた長髪の男も居た。 「お家、ないの?お父さんやお母さんは?居ないの?」 「…居ねえよ、」 答えたのはハレルヤだ。 アレルヤは女の存在に気付いているのかいないのか、顔をハレルヤの胸に押し付けるように縮こまったままだった。 女はしゃがみ込み、双子へと手を伸ばす。 髪を撫でそのオッドアイに気付くと微笑みを浮かべ手を差し出した。 「可愛いわね、寒いでしょう、私達の家に来なさい、」 「……」 にこにこ、と。 笑顔を絶やさない女、と、隣の男。 夫婦には見えなかった。 ついて行く気なんか無かったがこのままだとアレルヤが死にそうだ、ハレルヤは少し考えた後、無言で女の手に自分の手を重ねた。 家に着くと双子は風呂場に連れて行かれた。その後は食事。 何もかもが、あたたかい。 アレルヤは笑顔で喜んだ。きっと拾われたのだと思っているのだろう。馬鹿で可愛いアレルヤ。 ハレルヤは気付いている──この男と女が何かを企んでいることを。 こんな金を持ってそうな若い二人が孤児なんかわざわざ拾うわけがない。 きっとこの二人は売人だ、それも子供、孤児を売る売人。 子供が居ない二人の家に子供の服があることがまずおかしい。 この食事には毒や薬物はおそらく入っていない、もし殺すことが目的ならば毒なんて回りくどいものを入れずにとっくに殺しているはずだ。 睡眠薬も子供相手に使う奴はあまり居ない。 風呂も服、食事も笑顔も全ては信用させる為。 「…」 「ハレルヤ、ぼくたち、たすかったんだね、」 「お前…」 アレルヤは疑うことを知らずに笑顔で与えられた食事を口にした。 その笑顔の為に、ハレルヤはアレルヤを守ると決めた、こんな所ではアレルヤは死なせない。 「ああ、お前は助かるんだ、」 俺が、守るから、。 食事を終えると双子は部屋へと連れて行かれる。部屋には子供用のベッドが4つあった。 やはりこいつらは売人だ、子供を一度に何人も拾ってはこの部屋で眠らせているんだろう、 「ゆっくりお休み、」 「おやすみなさい、」 女は双子の頭を撫で、アレルヤは嬉しそうに笑う。 「ねえハレルヤ、」 「ん、」 「ベッドだよ、はじめてだね、」 「…ああ、そうだな、」 「いっしょにねようよ、」 「…」 アレルヤに手を引かれ一つのベッドに二人潜り込む。 アレルヤはにっこりと笑った。 「おやすみ、ハレルヤ、」 「おやすみ、」 朝まで眠れアレルヤ、朝まで決して目覚めるなアレルヤ、 目を閉じるアレルヤの髪をそっと撫で、ハレルヤはアレルヤが寝静まるのを待った。 「…」 アレルヤが眠り、ハレルヤはベッドから降り部屋を静かに出た。薄暗い廊下を少し進んだところでハレルヤはキッチンを見付けた。武器は必要だ、そこからナイフを手に取る。 そしてまた進み、明かりの付いた部屋を見つけた。 話し声が聞こえハレルヤは立ち止まり耳を澄ました。 「今日は二人しか狩れなかったわね、」 「だけどオッドアイは高値で売れるよ、珍しいからね、」 やっぱり。 「この仕事も楽じゃないわ、あんなに優しいふりしなきゃならないんですもの、顔が引き攣るわ」 「怖い顔じゃあ子供はついて来ないからね、」 「だから子供は嫌いなのよ、すぐ泣くしうるさいし、」 ハレルヤはニヤリと笑う。 お前達がろくでもない奴で良かった、これで心置きなくやれる。 「そうだ、ドラッグ切らしてたのよね、ビリーお願い、」 「また君はいつもそうやって…仕方ないな、」 がた、と席を立つ音が聞こえハレルヤは物陰に隠れた。 足音の後ドアが閉まる音、出て行ったのは男の方だ。 女一人なら余裕だ。 男が帰って来てもナイフ一つあれば十分勝てる。 ハレルヤはナイフを握りしめ、行動を開始した。 アレルヤが目覚めた時、隣にはハレルヤの寝顔があった。 その身体を揺する。 「ハレルヤ、あさだよ、」 「…ああ、」 「おはよう、」 「おはよ、…まだ寝てろ、」 「だめだよ、あのひとたちにもあいさつしなきゃ、」 「あいつらは居ねえぞ、」 「えっ、」 ハレルヤの言葉にアレルヤは首を傾げた。ハレルヤはふわふわの枕に眠そうな顔を埋めながら続きを告げる。 「此処、俺達でしばらく住んでていいってよ、」 「えっ…どうして?あのひとたちは?」 「昨日の夜どっか出掛けた、」 「そうなんだ、」 素直にその言葉を信じるアレルヤの頬にハレルヤは手を伸ばす。 昨晩、血に濡れた、その手を。 「アレルヤ」 「う、」 ふに、とアレルヤの柔らかい頬をつまむ。 「っもう、なに、」 「変な顔、」 「ハレルヤだっておなじかおなのに!」 「俺はかっこいいんだよ」 「うー、」 「もう少し寝てろ、」 「わ、」 手を頭へと移動させアレルヤの髪をぐしゃぐしゃにかくとアレルヤは赤子のように笑った。 その笑顔、アレルヤ、 俺はお前の為ならどんなに手を汚したっていい。 アレルヤの笑顔を見つめ、ハレルヤも笑った。 おわり 2009 4 17 死体は切り刻んでトイレにザーッ。 [*前][次#] |