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短編
異端者の楽園 後編(♀アレ)

スメラギさんへ


今日和、お久しぶりです。
月日の流れは早いもので、あれからもう4年経つんですね。
あの時は何も言わずに出て行ってしまってごめんなさい。
僕はハレルヤと一緒に暮らしています。僕達は元気です。

遅くなりましたが、ご結婚と妊娠おめでとうございます。
そろそろ産まれる頃ですよね、
ハレルヤと二人でお見舞いに行きますね。
この手紙が届く頃には、僕達もそっちに着いてると思います。

では、また。



アレルヤ・ハプティズム





「……」
白い便箋に書かれた綺麗な字を真剣な面持ちでスメラギは見つめていた。それをライルが見下ろしている。
「突然呼ばれて何かと思えば、ただの手紙だろう、どうしたんだよ」
「ハレルヤとアレルヤが…来るんですって」
「ああ、そう書いてるな、良かったな元気そうで、」
「……」
スメラギの表情は変わらない。

あの双子が消えてから4が経つ。今の今まで何の連絡もなかったのが突然、手紙、だなんて。それも何故かスメラギが結婚し妊娠したことを知っている。
あの双子は自分を憎んでいる、それが消えた理由だ。ならばこの穏やかな手紙は何だ。スメラギは言われもない恐怖を感じた。
スメラギの表情からライルは察したようだ、見下ろしたまま口を開く。
「怖いのか、」
「…」
「今更俺を呼んでどうするんだ?今度は自分のボディーガードでも依頼するか、」
「…そうじゃないけど…不安になったのよ、貴方しかこの事情知らないし…」
スメラギは出産を一週間後に控えていた。今は小さな、医師と看護婦が数名居るだけの本当に小さな所に入院している。
「アレルヤがお前に何かするとでも思ってるのか?」
「……」
「…俺は帰る」
呆れたように小さく息を吐いてライルは部屋を出て行った。

事件が起きたのはその翌日。
誰もが目を塞ぎたくなるような光景だった。

スメラギの悲鳴は誰の耳にも届かずに冷たい空間へと消えていく。

ハレルヤとアレルヤが、スメラギの病室に訪れたのはつい先程のこと。いくらか大人びていた二人を見、スメラギはぞっとする。
「お久しぶりです、スメラギさん、」
「…アレルヤ、ハレルヤ、」
「看護婦たちは全員眠らせたぜ、これで邪魔物は居ないってわけだ、」
八重歯を見せて笑うハレルヤの右手にはギラリと光るナイフが握られていた。

その直後、スメラギの悍ましい絶叫。
誰も助けに来る人間は居なかった。

恐ろしいことにハレルヤはそのナイフでスメラギの腹をぎりぎりと裂き、子供を取り出したのだ。
ハレルヤの手には真っ赤な子供。
その子供をそっとアレルヤへ渡す。
アレルヤは小さく微笑んで子供の額に口付けた。
悪夢なら早く覚めてほしい。
意識が飛んでしまいそうな感覚、うまく呼吸が出来ないスメラギをアレルヤは綺麗に微笑んだまま見下ろした。
「この子は僕とハレルヤの子供なんです、4年前産んであげられなかった僕達の子供…。子供が産めない身体になった僕の代わりに、スメラギさん、今までお腹を貸してくれて有難うございました、」
「…っ、」
狂っている、悪魔だ、そう叫びたいが大声を出そうとすれば腹から内臓が飛び出してしまうのをスメラギは恐れた。震える声を振り絞る。
「違っ…、私、の…!」
「…最後に抱かせてあげてもいいですよ、子供、」
アレルヤはまるで聖母のように美しく笑む。
血に濡れたその手で。
それが哀れみか、優しさか、気まぐれか、解らない。
「スメラギさん、」
前屈みになり子供の顔をスメラギに見せようとしたアレルヤ。
その瞬間をスメラギは見逃さなかった。
歯を食いしばり、素早く棚にあった果物ナイフを手に取ってそれを力の限りアレルヤの腹にぶすりと突き刺した。
アレルヤは目を見開いて自分の腹を見下ろす。
何が起こったのか解っていないようだったが、服にじわりと血が滲んだとき、アレルヤは顔を歪めてベッドに倒れ込んだ。
アレルヤの腕から離れた子供をスメラギはその胸に抱き留めて、。
「アレルヤ!!」
「っ…!」
「っクソババア!!」
ハレルヤが声を上げ、持っていたナイフをスメラギの肩に突き刺した。
スメラギはもう声を出す気力すら残っていなかった、顔を激痛に歪めていたが子供だけはしっかりと抱きしめている。
ハレルヤはアレルヤを抱き上げ、走り出していた。
「…ハレ、ルヤ、」
「喋んな!」
じわじわとアレルヤの服を血が染めていく。
こんなことになるのならスメラギをさっさと殺しておくんだった。
後悔が消えない。
入り口を出、車に乗り込もうとした時、見覚えのある男がこちらに銃を向けていた。
「な…」
その男は、

ドンッドンッ──

「ぐあっ…!!」
脚に激痛が走り地に膝を着く。左のふくらはぎと太股を撃たれた。ハレルヤは歯を食いしばりその男を睨み付ける。
「何のつもりだ…ロックオン…ッ!!」
ロックオン、4年前にハレルヤが居た施設の園長、それが何故今此処に、
「ロックオン?…ああ、確か兄さんが施設ではそう呼ばれてるんだっけ?俺は弟のライル・ディランディ、お前とは初めましてだよ、ハレルヤ・ハプティズム」
「…ライ、ル…?」
目の前の男はロックオンの弟?顔も声も何もかも同じに見えた。
「嫌な予感がして来てみりゃあ…おいおい、復讐ってやつか?」
「てめえにゃ関係ねえ…!!」
こんな奴に構ってなんかいられない、早くアレルヤを病院に…。
アレルヤを強く抱きしめ、ハレルヤは車のドアを開けようとした、
「血まみれのお前らを逃す程俺は馬鹿じゃない、」
「っ!」
撃たれた弾はタイヤを貫通した。バランスを崩しみるみる傾いていく車。
「警察ももうすぐ着く、万事休すだな、ハレルヤ、」
「…っ何でだよ、何でみんな俺らの邪魔すんだよ!アレルヤはあのババアのせいでガキが産めない身体になったんだよ、それなのにあのババアがガキ産むなんて、おかしいだろ!?」
必死に睨み付ける金色に同情する。
血が繋がってなかったら──同じ腹から生まれなければ良かったのにな。
「…哀れだな、」
遠くからサイレンが聞こえる。
「…畜生ッ、畜生…畜生ぉおお!!」









ハレルヤは逮捕された。
アレルヤは入院し、退院後に逮捕ということになる。
スメラギと子供も奇跡的に無事だった。

その恐ろしい事件から半年後、ハレルヤが脱獄したとスメラギはライルから聞いた。アレルヤもまた姿を消した。
「一人で脱獄なんて無理だ、共犯が複数居る、」
「…また、来るかしら、」
「さあな…だが復讐されても仕方ないことをあんたはした、俺はそう思う。」
「…」

それから幾らか月日が流れたが、ハレルヤとアレルヤがスメラギの前に現れることはもう無かった。

何故ならば、










「──奇跡だって言ってた、本当に、奇跡だって!」
アレルヤは満面の笑みでハレルヤを見上げる。その手は腹を守るように、そっと添えられていた。
「…アレルヤ、」
「今度こそ、ちゃんと、産んであげるから、」
「、」
アレルヤを見下ろしながらハレルヤは何かが込み上げてくる──きっと涙だ──、抑え切れずに強くアレルヤを抱きしめた。



アレルヤが好きだった、
ただそれだけだった。









おわり

2009 3 4












脱獄を手助けしたのはロックオンと刹那とティエリア。
ライルはどっちつかずの蝙蝠。面白くなればそれでいい的な考え。

本当は何年後かにスメラギの子供が死んで、その時にアレルヤが妊娠したことをライルから聞いて、今度はスメラギの逆恨み復讐劇の始まり…ってオチだったけど後味悪いのでやめた。


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あきゅろす。
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