自転と公転
「今日はね、地球が自転しているってことを実感したの。」
「当たり前だ。惑星が自転し、恒星の周りを公転していなければ生物は生まれねぇんだ。」
そう、それが言いたかったの、と慧は微笑んだ。
「先週までは私の部屋に、月光は無かった。でも今日はあるでしょ?」
御伽噺を読み聞かせるように、穏やかな声だった。
地球が自転して、公転して生物が生まれて。
私は、毎日同じ道を真っ平らだと思って、真っ直ぐだと思って、何も変わらない道だと思って歩いている。
けど、地球は自転していて、公転している。
冬に見える星座が、夏は見ることができないように、夜空は変わっていく。
それを今更に納得して、私は地球という小さな惑星の、島国の小さな地域だけで生きているんだと実感した。
「クルルは、ここから何億光年も先の、私が体験できない遠くから来たんだと思ったの。」
そうしたら、クルルをとても遠く感じた。そして、いつか帰ってしまう事実を考えて、慧は喉が熱くなった。
「泣くなよ。」
いつか連れて行ってやるなんて言えないし、慧がその言葉が欲しいわけではないこともクルルにはわかっていた。
慧の涙を、彼女よりも小さな手に受け止めて、クルルは慧の頬に手を添えた。
目前に立ち、背中に月光を浴びたクルルの黄色は、宇宙で最も綺麗なんじゃないかと慧は思った。
「やっぱり月光を浴びると、生き物は綺麗に成れるんだね。」
姿かたちが違う異星人であること、慧とクルルが出会うことはこの宇宙では、奇跡のような確立。
「俺は、このペコポンで慧に出会って、こうして二人でいられるこの時間だけで、産まれてきて良かったと思うぜぇ。」
宇宙から考えれば、小さな惑星に生まれた幾億もの生命の中の、たった一つ。
ちっぽけだからこそ、幾千幾億ものなかのたった一つだからこそ愛しいのだ、と。
クルルは慧を、小さな体で抱きしめた。
地球という籠の中に閉じ込められた命。
現在の科学では、決して逃げられないこの世界の中で。
手を伸ばすことさえ幻想な月光だけが与えられた世界の中で。
私は誰を想って眠りにつこうか?
叶うなら、
永遠の眠りにつく時は貴方を想って、
月光にうずもれて、
貴方の胸の中で………
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