願いをこめて



「織姫と彦星は1年に1度しか会えないんだね。
好きな人とそんな長く離れていて寂しくないのかな?」

日向家の庭で揺れる笹の葉。結んだ短冊の色鮮やかさが、夜空の星に負けまいと対抗する。

西澤桃華は、毎日一緒に居たいと言った。

日向夏美も、同じように毎日一緒に居られるよう努力している。

「桃華ちゃんも、夏美ちゃんもすごいね。自分の人生精一杯生きてるってカンジだね?」

ね?と慧は首を傾げて、俺に同意を求める。

ペコポン人は俺たちと比べると、遥かにその命は短い。

短いからこそ、その命が放つ炎は眩しく、強く光を放つ。

先輩も、この光にやられたんだろうか?

「おまえはどうするんだぁ?」

「私?私は〜、………私も1年に1度しか会えないのはイヤだな。
私の人生あと何年残ってるかわからないけど、それでも後50年前後でしょ?
そしたら、あと50回しか会えないんだよ?
数えられるだけしか会えないのって、何かイヤだな」

「慧は、俺と数えられないくらいの日々を一緒に居たいってかぁ〜?」

「うっ!!」

慧の顔が赤くなる。クククッ〜、こいつのこういう顔は嫌いじゃねェな。

「クっ、クルルは?クルルならどうする?」

慧が俺を覗き込むように、顔を寄せてくる。

「さぁね〜、まぁ星の寿命を考えれば、おまえが言うような1年に1度しか会えないってのは、嘘になるなぁ。
何億年も輝く星にとって、一年なんざあっという間だからな」

何億光年先で輝く星を見上げる。

「それにな〜、毎日顔を合わせてりゃ、誰だって嫌な部分が目に付くもんさ。
1年に1度だからこそ、相手の良いところだけ見てられるって寸法だろ?」

「うわ〜、イヤミ……」

クククッ〜、俺は陰湿に笑った。

「まぁね、一緒に居れば良いところだけを見ていられるわけじゃないもんね。
でもさ、それって私達にも当てはまるってことでしょ?」

慧がツラそうに顔を歪めた。

「じゃぁ、私達も限定の方がいいんじゃない?1年に1回だけ会えるようにする?」


クッ・・・




「あっ!イヤなんだ〜?」

してやったりという表情で、慧が俺の顔を指先でつつく。

「私に会えなくなるのはイヤ?
 毎日会いたい?」

楽しそうに慧が俺に問いかける。

「………………嫌なところを見ても、幻滅しない?」

いつの間にか、慧は不安げに瞳を揺らしていた。


「幻滅するようなおまえを見せてくれるって言うなら、大歓迎だぜ〜?」

良いところだけを見せる奴なんざ、信用が置けるはずが無い。

「……それって、クルルの前ではありのままの私を見せて欲しいってこと?」

こいつは。

「慧は、俺の言葉を湾曲させて受け取るのが上手いな。」

「そう?私はクルルの気持ちを正しく理解して、言い直しているだけだと思うけど?」

イヤミを言ったつもりが、慧の言うことを肯定してしまったようだ。

舌打ちして、席を立つ。

「願い事書いたんだから、行くぜ〜」

そういえば、短冊を書くように慧に言われ、リビングに足止めされていたのだった。

「あっ!待って、一緒に行くから」

慌てて慧が短冊を笹に結びつける。リビングの扉を開けた俺を慧が抱き上げる。

「じゃ、行こっか?」

彼女の腕の中から見上げた顔は、嬉しそうだった。













1年に1度しか会えないのであれば、会えるようにしてみせよう。

だから、俺の前ではそのままの君を見せて欲しい。

君と会えるのが、あと何回かわからないけれど。




『ずっと一緒に居られますように』

黄色い短冊が風に揺れた。










←感想の代わりにポチっと。










[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!