囚われて




慧、そろそろ時間だぜ。来な〜。

うん。

どこからともなく声が聞こえ、慧が答える。
食事の礼をして、そのままリビングから出ようとする。


ねぇ!本当に良いの?

夏美が慧の背中に叫ぶ。

……うん、いいの。これが、私の幸せだから。

振り返って微笑む顔に、夏美は何も言ってはいけないのだと思った。

慧……

そばにいられるなら、良いの。




パタン。


ギロロが握り締めた夏美の手をとる。

クルルは馬鹿なヤツだ。
自分の気持ちを、自分に表現できなくなっていたなんてな。

アイツがいた頃は、まだ……クルルは自分の気持ちを正直に表現してたな。

嫌な奴だったことは、変わりなかったけどね。

それでも、アイツの言うことにウソはなかったさ。

夏美は眉間に力を入れて目を閉じた。

でもっ!あれじゃあ、慧が可哀想よ!

夏美の叫び声で空気が避けた。

天井から聞いていたドロロが、リビングに降り立つ。

……慧殿は、クルル殿が自我を保つ最後の砦なんでござるよ。

座っていたイスから、慧の出て行った扉をタママは見つめた。

慧っチの願いが、こんな最悪の形で叶えられるなんて、ツラ過ぎるですぅ……











傍に居たいの。
どんな形でも良い。

彼の傍に居られるなら、どんな理由でも良いの。




そう言って笑った彼女の微笑みは、囚われた後も変わらなかった。



それが何より、皆の心を傷つけた。



























あぁ、緑の隊長殿。
隊長殿の代わりは誰にも出来ないのです。
代理である彼には、隊長という任務は、彼らしくあることと相反することなのです。























ケロロ。
ケロロ君。
軍曹さん。
ぼけガエル。
軍曹。

ただいまであります!

おじさま〜

モアがケロロに駆け寄る。
遅れて、タママも近寄る。

けれど、皆の視線は低い。
そして、皆の視線は同じ。

彼等を直視しない。




ケロロさん?

おかえりなさい。
これで地球侵略できますね。

慧は、いってくると言った時と、何も変わらない顔で出迎えてくれた。
ただ、傍に立つ隊長代理を務めた彼だけが変わっていた。


ケロロ、クルルは、こいつはあろう事か慧をっ!

ギロロが口篭もる。
いつだってはっきり言う夏美ですら、言いよどむ。

クルルは、慧を………………



実験体として………




ギロロがクルルの喉元に掴みかかる。
クルルは抵抗もしない。
夏美が言ったことは事実だから。

慧に実験と称して、様々なことをした。

ギロロや夏美だけでなく、冬樹やモアも知っているようだった。




どんな実験をされたのか慧は一言も言わなかったし、慧がラボから出てくるのは食事の時だけだった。
それすらも、危ういこともあった。
一日に数度、顔を見せると一様に皆、安堵の溜息を漏らした。

だが。
クルルがラボから出ることは無かった。

今日、ケロロが帰ってきて、初めてギロロ達の前に姿を現したのだ。






クルル、隊長代理お疲れ様であります。
我輩の代わりに、小隊を守ってくれて感謝するであります。


そんなにツラかったでありますか?

ケロロの問いにクルルは答えない。



……慧殿と四六時中一緒に居なければならない程?

っ!!






動揺を察し、慧はクルルに目隠しをする。


クルル?
私は貴方のおもちゃのままで良いの。
だから、傍から放さないで。





慧はそのままクルルの表情を隠し続けた。
沈黙は長かった。




ケロロはわかった。
慧がこの関係を甘受していることも、クルルがこの関係を望みながらも過ちに気づいていることも。





クルル、お疲れ様であります。
もう良いんだヨ?
らしくないじゃん、今のクルル。


皆を、陰険で陰湿、陰鬱な発明でイヤ〜な気にさせるであります。

我輩、頑張って作戦を考えるからさ。



出ていった時と変わらぬケロロ。

明るく、何の心配もしていないという口調。












くくくっ〜、楽しみにしてるぜ。ケロロ隊長〜。





慧。

クルルは視線を隠す手を外し、そのまま慧の手を離さずに部屋から出た。













また、二人でラボにいる。
でも、クルルは慧に何もしない。





慧。

実験体じゃなくても、良いんだ。
傍に居てほしい。



………………イヤじゃなかったよ、実験。

理由なくても傍に居ていいの?
縛ってとどめて、クルルの好きにして良いって言ったの私だよ?



確かに、それは俺の趣味だぜ。
だが、そんなことしなくても、慧は傍にいてくれるんだろ?





………………いるよ。


なら、いい。















だからお願い、僕の傍に居てくれないか、君が好きだから。
この思いが君に届くように。
願いが叶いますように。



この世界が闇に染まる前に、この思いを……


君が傍に居るだけで、僕はまた進むことが出来て、また新たな力を手に入れるんだ……

(song by HY)










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