よかったら



もう、風も冷たくなり始めた季節。

夕方ともなれば、コートの襟を立て、皆が足早に帰宅する時間。


夕日が、公園のベンチに長い影を作っていた。


彼女はそこで一人で座り、空を見上げて涙を流していた。

その涙が夕日で光り、この俺が有り得ない、と思うほどに、ただ綺麗だと思った。


ひやりとした風が俺の背から吹きつけ、彼女の髪を波立てた。

風をたどるに視線が動き、彼女が俺を見た。

アンチバリアを展開している俺を彼女が見えるわけではないのに、俺は彼女に見られていると感じた。


そして、それは事実だった。

彼女には本当に俺が見えていた。



「黄色いカエルさん?

よかったら隣に座りませんか?」












「クククっ、冗談かと思ったぜぇ」

「それは私も同じですよ」


カエルのような形をしているが、宇宙人であること、一応侵略者であることを説明したクルルと慧は楽しそうに笑いあった。

初めて会ったのに、何故か気が合うのを感じた。

クルルは睦美のように、同じカテゴリに入る仲間以外に、こんなに気が合う者がいることに内心驚いていたが、おくびにも出さずに会話を続けた。




二人はしばらくベンチに座ったまま、話を続けた。

ふと、慧が時計を見る。

「そろそろ帰らないといけない時間ですね。クルルさんも、仲間の方が心配されますよ?」

「クククッ〜、俺がどこで何をしようか、心配なんざしてくれねェ〜ぜ」

「そんなことありませんよ?声に出さないだけで、心配していないとは言えないでしょう?」

「クッ?」

「さぁ、今日はお互い帰りましょう。日が暮れるのが早くなっているから、今から帰っても家に着く頃には真っ暗になってしまいます。
楽しい時間だったけれど、楽しい時間は早く過ぎるものだし、いつかは終わるものですよ?」

どこか悲しい微笑だった。

次に会う約束をせず、二人は別れた。











クルルは、次の週の同じ曜日、同じ時間帯に公園にいた。

何故かはわからないが、もう一度彼女に会いたかった。


彼女は、先週と同じように空を見上げ、涙を流していた。

クルルは、そっと彼女に近づいて涙を拭った。

迷惑をかけたと、慧はクルルに笑いかけた。けれど、やっぱりその笑顔は悲しいとクルルは感じた。



二人は日が暮れる少し前まで、また話をした。

そして、別れた。





次の週もその次の週も、約束はしなかったが同じ曜日、同じ場所、同じ時間帯に二人は会った。










そんな風に、2ヶ月ぐらいが過ぎた。

二人で会って、短い時間話をするだけだったけれど、クルルはおもしろいと感じていた。

睦美とはいる時は、相手が何をしてくるかわからない面白さがある。

慧といる時は、何もしなくても良い時があると思い知る。

『嫌な奴』が、自分に最も合う評価だと思うが、慧の前では何か違うように感じた。

それを知りたくて、そんな自分がいることが面白かった。














ある日、同じように待っていても彼女は来なかった。

約束をしていたわけではないからと、その日は帰った。

しかし、次の週も彼女は来なかった。



クルルは焦った。

彼女について何も知らないのだ。

苗字はもちろん、年齢も住んでいる場所も、連絡が取れるようなものは何も知らなかった。

自慢のパソコンを使っても、調べるには情報が足りないことを、クルル自身が良くわかっていた。

それで良いと思っていた。

そういう、付き合いだったのだから。




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