信じられない




「ちょっと歪なのもあるけど、味は大丈夫だと思うから」

夏美はクッキーとお茶を持ってリビングのソファーに座った。

「夏美の手作りクッキーなら、色んな人が泣いて欲しがるよ」

笑ってクッキーに手を伸ばす。

「おいし〜!夏美の彼氏が羨ましいな〜」

「かっ、か、彼氏って?!(///△//)」

「えっ?彼氏でしょ、赤いカエルさん」

違うの?という目で見ると、夏美の顔は更に赤くなった。

「いいな〜、夏美は可愛くて。私なんか、可愛いなんて言われないもんねー」

背中にあったクッションを持ち上げ、顎を乗せる。

「ギロロさんから可愛いって言ってもらえる?」

「あー、あんまりアイツ、そういうこと言うの得意じゃないから」

苦笑気味に笑う夏美は、それでも嬉しそうだった。想われている強さからくるんだろうか。あの人もそういうことをいうタイプじゃないだろうし。まして、私を相手してくれるとも思えない。

「可愛いって言葉は、やっぱり女の子に似合うよね。私には似合わない言葉だし、私に言ってくれる人なんて居ないんだろうなぁ〜」

泣き出しそな声を出して、クッションに顔を埋める私を見て、夏美が微笑んだ。

「慧は、可愛いって言うより、綺麗だからね」

夏美の体型はやわらかい女性のラインを持つが、私自身は凹凸が少なく背が高いだけだった。

「スレンダーって言うんだよ、慧は」

にっこり笑う夏美は、やっぱり可愛いという形容詞が似合う。

「う〜〜、コンプレックスなんだよね、可愛くないの」

可愛い女の子を守るのが当たり前の生活だった。自分が可愛い女の子になる隙間は1%も無かったのだ。

「スキな人の前では可愛い女の子になりたいでしょ?! 女の子にモテるかっこいい私じゃなくて、可愛らしい私(私の中にその要素があるかはわからないけど)でアピールしたい。
ってゆーのが、乙女心ってもんでしょ?! 」

拳を握って力説する私に、夏美が何か言う為に口を開こうとした。





「慧は、可愛いぜ〜」



「「 えっ?! 」」





リビングの扉からクルルが入ってきた。

そのままソファーに登り、慧の隣に立った。

「おまえは可愛いぜ、この俺が保障してやるよ」

いつもの陰湿な言い方なんかじゃなくて、真摯に思いを込めて言っていると感じた。

「ちょっと、クルル!どういうつもり ?! 慧のこと騙して今度は何をするつもりよ!」

夏美が人差し指で、ビシィと効果音をつけてクルルを指差し、怒鳴った。

「ク〜クックックッ

騙すつもりなんかねぇよ。俺は思っていることを言ってるだけだぜぇ」

サラリと夏美をかわすと、私の膝の上にあったクッションをどけ、クルルはその飽いた場所に収まった。

腕を伸ばし、頬に手を添えられる。

「信じろよ。慧は、可愛いぜぇ。俺が言うんだから信じろよなぁ〜、クククッ」

「………うん、信じる。クルルさんが私に言ってくれたから、信じる。…けど、」

その続きを、言い出す勇気が中々でない。

「クルルで良いって言っただろう?俺の言うことが信じられねェのか?」

首を振って違うと答える。

クルルが私なんかを可愛いといってくれる日が来るとは思わなかったから、顔が熱くなる。

「…違うの、そのっ、……あのっ……」







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