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光の勇者と猫耳魔王


*鳩様:魔王になったばかりのレウコンをサクッと倒して嫁にしちゃうカムイ(勇者)で出来れば裏



それは旅の途中の事。


「もし、そこの兄さん」


呼び止めたのはフードを目深に被った占い師。

濁った水晶を撫で、爪の伸びた指が真っ直ぐにこちらを指差している。


「魔王の城へ行くのだろう?兄さんの顔には出会いの相が出ている、魔王の間で運命の相手と出会うだろうよ」


そう告げた言葉はインチキ臭く聞こえた。

魔王の間といえば魔王がおわす所。

その出会いの相手が魔王だとしてこちらは勇者、宿敵の定めであるのだから運命的な出会いであるのは間違いなく。


「そうですか、ありがとうございます」


棒読みで礼を言った勇者・カムイはまったく信じていなかった。

―――魔王の間を訪れるまでは。





襲い来る魔族を次々と倒し、ついに辿り着いた魔王の間。

重苦しい扉を開け放ち、カムイは魔力に満ちた広すぎる空間に足を踏み入れた。

正面には巨大な玉座が見える。

そこに腰かけ、勇者の訪れに不敵な笑みを浮かべる魔王は―――いない。

どこかに隠れているのだろうか。

カムイは警戒しつつ玉座に歩み寄る。

いつ襲撃を受けても対応出来るよう、剣は抜きっぱなしだ。

その白く輝く刃を、一瞥した。

魔族が持つ闇の波動に反応して煌めく刃は、玉座に近づくにつれ光を増すばかりだ。

この剣は力の強さに呼応するらしい。

今まで一度も見た事のない眩しさは、付近に魔王か、あるいは魔王に近い力を持つ者がいる証拠だ。

そろり、と慎重に歩くカムイ。

ますます輝く刃。

・・・が、魔王は愚か、魔族の誰一人として姿を見せない。

どういう事か、怪訝げに眉根を寄せたカムイの足は、とうとう玉座に辿り着いてしまった。

しかしそこで、カムイは珍しく目を見開く事となる。

一体何が座るつもりなのか問いただしたくなる横にも縦にも長い座。

その隅っこに、丸くなって眠る子供がいたのだ。

顔にかかる金の髪、その合間からぴょこんと覗く三角の耳。

瞼が閉じられた可愛らしい顔立ちは、少女にも少年にも見える。

数秒程寝顔を見つめ、はっと我にかえった。

幼い子は魔族のようだが、それにしてもカムイの好みのタイプのど真ん中を貫いていた。

玉座に乗り、子供に手を伸ばす。

触れた頬はまろやか。

髪はふわふわ、手触りの良い三角の耳は温かい。

と、不意に剣が強く光を放った。

あまりの強さに子供が起きてしまうと鞘におさめかけたが、それよりも早くうー、と子供が唸り声を上げる。

そっと開かれた瞼。

光により近い方が翠、離れる程に碧の色が重なった翠碧色の双眸だ。


「・・・だれ?」


舌足らずな声音。

少女にしては少し低いので、恐らくは少年、なのだろう。

目を擦りながら身体を起こす子供に、カムイは謝罪を述べた。


「申し訳ありません、起こしてしまいましたね。俺はカムイ、勇者です」

「ん・・・ボク、レウコン。まおう・・・」

「魔王・・・って、貴方が?」


どう見てもただの子供にしか見えない。

が、それを肯定するかのようにしまい損ねた剣はより一層輝くばかりだ。

俄かには信じがたいが、ふとカムイはある事を思い出した。


「もし魔王であれば『魔王の指輪』を持っているはず」


見せていただけませんか、と問えば、レウコンは眠そうな表情で懐に手を入れた。


「これ・・・」


差し出されたそれは、見ただけで圧倒される魔力を秘めた指輪。

剣の輝きに呼応して、深い闇に満ち始めている。

どうやら本物らしい。


「昨日アル兄からもらった、たからもの」


ふにゃん、と表情が柔いだ。

それはそれは可愛らしいが、アル兄とやらに対する笑みだと思うと腹立たしい。

カムイは剣の切っ先を指輪に当てた。

コツ、と叩くと闇が霧散し、指輪の魔力が掻き消える。

それは旅の最中に知った魔を完璧に封じる剣の能力の一つ。

本来は指輪そのものを砕かなければならないが、そんな事をすればこの子が泣きそうで。

ビクリとレウコンの肩が跳ねる。


「なに、したの・・・?」


譲り受けた持ち主だけあって、指輪の魔力が完璧に封じられたのに気づいたらしい。

不安気な表情を向けられて、カムイは知る人が皆胡散臭いという笑みを浮かべる。


「指輪の闇の部分を封じたのですよ。これは危険なものですからね」


見なさい、と窓を指す。

指輪の魔力によって引き寄せられていた暗雲が、散り散りになっていく。

薄くなっていく雲の切れ間から太陽が覗き、その明るい光で空気が浄化されていくかのよう。

わ、とレウコンの丸い目が大きく開かれる。

ととと、と窓に寄り、射し込む光に耳を忙しなく動かす様は、まるで子猫のようで。

『魔王の指輪』を持つ魔王が住まう魔王の城は常に闇を纏っているだけにいつも暗雲が立ち込めているという。

レウコンもまた、恐らく晴天を見た事がなかったのだ。

カムイはレウコンの側に寄った。


「魔王・・・いや、レウコン」


肩に手を置く。

振り返った眼差しに、にっこりと。


「指輪の魔力がなくなった今、貴方はもう魔王ではありませんし、良ければ俺の元へ嫁に来ませんか?」


きょとん、とレウコンの目が瞬く。

首が傾いた後、耳をぴくりと動かし、


「いいよ?」


こくんと頷いたのを見て、カムイは歓喜に唇の端を吊り上げた。









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