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NO.24500


*鳩様リク:カムイ様→アルギュロス←アスベルで妖怪パロ



するりと、ひんやりした何かが頬を撫でている。

唐突に肌寒さを感じて、アルギュロスは目を開いた。

熱に浮かされたように重い瞼の向こうには、青年の姿が見える。

二、三度瞬きを繰り返して、アルギュロスは怪訝に眉を寄せた。


「・・・どちら様?」

「つれないですねぇ・・・」


ふふ、と青年が笑う。


「昨日はあんなにも交わした仲だというのに」


つい、と顎を取られる。

先程からの感触が青年の手であった事に、アルギュロスはようやく気づいた。

こちらもやたらと重い左腕を持ち上げ、払おうとしーーーふと、彼の言葉に聞き漏らしてはいけない言葉を聞いたような気がして、勢いよく上半身を起こした。


「ッ」

「痛っ」


当然ながら覆いかぶさる体勢で覗き込んでいた青年の顎に、額をぶつけてしまう。

二人揃って悶絶していると、遠く足音が聞こえてきた。


「アルギュロス、起き・・・」

「・・・アスベル」


駆け足気味に現れたのは、アルギュロスにとって顔馴染みの青年だ。

彼はこちらをーーー正確には顎を手で押さえる青年を見るや否や、キッと眦を吊り上げる。


「アルギュロスから離れろ、蛇妖」

「失礼ですね。俺は蛇じゃありませんよ」


ゆらり、青年の影が細長く揺らめく。


「あ」


それがきっかけであったかのように、アルギュロスの脳裏に昨夜までの記憶が蘇った。





人に害を成す妖怪を退治するのが主業のアルギュロスの元に依頼が舞い込んだのは、夏も終わりの事だった。

人里離れた山の中、山神を祀る祠近くの湖にいつしか一匹の妖怪が棲み着いて、通りがかった村人を水中に引きずり込んで喰らうのだという。

酒を納めれば大人しくしていたようだが、最近では贄も求めるようになったらしい。

その妖怪をどうにかしてほしいというのが村人達が寄せた要望であり、特に仕事が立て込んでいるわけでもなく、断る理由もないアルギュロスはそれを承認した。

酒を手に湖へ赴く・・・までは良かったのだが、


「あれ?」


どこで道を間違えたのか、途中の山道で迷ってしまった。

しかも、何故か式であり、長年の相棒である樹精のアスベルを呼び出す事が出来ない。

木に属する彼の力があれば山などものともせずに動き回れるが、どうやらこの辺りにはそういったものを妨げる結界が張り巡らせてあるようだった。

特にこれといった目印もなく、無造作に木が並ぶ場所でむやみに歩くのは得策ではない。

さてどうしようか、悩んだアルギュロスに落ちる影。

見上げれば、太い木の幹に絡みつく蛇に似た妖怪の姿。

妖怪が立ち入れぬ事の出来ないはずの場所に何故、と思う間もなく、目があった妖怪はするすると木を降りてくる。


『お困りですか?』

「・・・ん。道に迷っちゃって」


襲い来る気配もなく、むしろ友好的な雰囲気を覚えてアルギュロスは応答に応じた。

アルギュロスを取り巻くように緩くとぐろを巻いた妖怪は、手の内にある酒瓶を見、目を細める。


『そちらをくださればお好きな場所へ案内しますよ』

「酒?・・・ん、わかった」


ちらり、と酒瓶を見下ろしたアルギュロスは、後先についてほんの僅かに思考したものの、まぁ湖に辿り着けるならば、と頷く。

す、と頭を下げたその首に酒瓶の紐を巻きつつ尋ねる。


「ここに妖怪が棲む湖があるって聞いたんだけど、そこまで案内を頼める?」

『構いませんが・・・貴方、退治屋ですか?』

「一応は」


そうですか、と頭をもたげたその雰囲気に、警戒の色はなかった。

アルギュロスにもその気がない事を信じているのか、あるいは襲われても容易くあしらえる程の力を持っているのか。

計り知れない妖怪は、こちらに背を向けて振り返る。


『乗ってください。送りますよ』





あっという間だった。

鋭く長い鉤爪が備わった四肢があるというのに蛇のように地を舐め、進む速さは、例えるならば突風のよう。

アルギュロスはそのあまりの速さに酔ったらしい、わずかにふらついたものの、湖の畔に足をつけた。


「ありがと」

『礼には及びませんよ』


妖怪は、首の酒瓶を爪でなぞる。


『酒をもらっておいてこういう事を頼むのもなんですが、俺も奴には腹を立てていましてね。貴方にはぜひ奴を退治していただきたいのですよ』

「まぁ、努力はするよ」


御武運を、と呟いて、妖怪はするりと緑の中に消えていった。

長年歳を得たと思わせるくすんだ金鱗が見えなくなってから、アルギュロスは湖に向き直る。


「アスベル」

「ここに」


意識して呼び出せば、結界を抜けた為に応える声。

白の衣服に身を包む白樹の精を傍に控え、アルギュロスは波打ち始めた水面に浮かぶ影を待った。








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