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NO.17500


*鳩様リク:2時代アルギュロス×アスベル



地底湖の水面が、静かに揺れている。

閉ざされた最奥、辺り一面を黄昏の色に染め上げる夕陽の光を浴びながら、アルギュロスは深いため息をついた。

ここに辿り着くまでに数々のモンスターを薙ぎ払ってきた大剣を片手に周囲を見回す。

湖から突き出す黄色く輝く岩、湖畔に建つ「こちら」と「あちら」の境である門。

神秘的なその光景に、 何ら変わった様子は見受けられない。



「負」の量にも変わりはない、か。



常人の目には見えないが、ここには常に「負」が流れ込んでいる。

まるで川のように、向かう先は門の向こう。

増加も減少もなく、以前立ち寄った時と同じ量を保ち続けていた。

ーーーアルギュロスがこの地に足を踏み入れたのは、強い空間の「歪み」を感知した為だった。

それはほんの数秒にも満たない短な間だったが、ここグラニデは数ヶ月前に「負」が暴走したばかり。

まだ安定したとはいえない世情、放っておくわけにはいかないと単身出向いたが。


「無駄足だったか」


しばらく様子を見るも、「歪み」も、それを引き起こす原因になりかねない「負」にも何の異常もなく。

消滅したか、あるいは移動したか。

これ以上ここにいても新たな情報は得られないだろうと、アルギュロスは来た道を引き返した。

ここは、死者の魂が集う場所だ、用もなく留まり続けるのは褒められた事ではない。





異国を思わせる朱塗りの道を通る。

門から遠ざかれば死者の国の明かりと称される光は薄れ、周囲は遠く見通せない薄闇に覆われていく。

不揃いに立つ樹から舞い上がる、濃桃色の花びら。

それらが閉ざされた洞穴に色を添える様は幻想的で美しかったが、景色を楽しむ余裕はなかった。

花びらに紛れ、襲い来るモンスター達。

人の骨格や、または死体を思わせる容姿を持ったそれらを次々と斬り捨てる。

刃に薄っすらと纏わせたマナによって昇華される様を見届ける事なく、駆け出す。

かすかにだが、音が聞こえたのだ。

男性の、呻きとも悲鳴とも取れる声が。

迷い込んだ一般人か、はたまた命知らずな冒険者か。

どちらにせよ手間がかかる事を、と舌打ちする。

遠く、モンスターが群れている光景が見えた。

一体どこからこんなに集まったのか、まるでダークボトルを大量にぶちまけたかのように続々と現れている。

その奥、モンスター達が目指す一点から、モノを斬る音が聞こえた。


「邪魔だ、どけ!」


こちらの接近に気づいたモンスターが矛先を変え、牙を剥く。

返り討ちにしながらもきりがないと判断したアルギュロスは、身に秘めた大量のマナを放った。

地を蹴り、宙に身体を浮かせて、重量を乗せた大剣の先を道に突き刺す。

アルギュロスを中心に、陣が広がった。

マナを大量に含んで溢れ出した蒼白い光が、触れたモンスターを飲み込んでいく。

一瞬にして陣内に足を踏み入れたモンスターを昇華させる、秘奥技。

辺り一面を照らす眩い光が収束していく。

どうやらこの一撃でモンスターを一掃出来たようで、先程の密集が嘘のように見晴らしがいい。

そして、モンスターに囲まれていただろう青年の姿。

その見覚えのある容姿にアルギュロスは目を見開く。


「君、は」

「・・・アル、ギュロス・・・?」


赤茶色の髪と、血やら埃やらで汚れてしまった白い衣服。

むき出しの剣を支えに肩で荒い呼吸を繰り返し、蒼い双眸を向けてきたその人物は、以前異世界からグラニデに迷い込んだ事のある異邦人・アスベルだった。









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