街並み 大きな街、特に都会はある意味一種の迷路である。 街中には必ず大通りが一本走っているが、少しでも道を逸れればそこは入り組んだ複雑な小道。 さらに街によっては地下通路もあるので、慣れていない者にとっては大迷宮である。 各地を転々とする都合上、カナデは何度か都会に立ち寄っているが、どちらかといえば小道には詳しい方だった。 あまり人の多い所を好まず、人気の少ない道を選んで通っていたからだろうか。 逆にヒビキは路地が苦手らしい。 一体何でそんな所に入ろうと思ったのか、とため息をつきながら足早に小道を進む。 「迷子になった」とポケギアを通じてヒビキに泣きつかれたのが数十分前。 今どこにいるのかまったくわからない上に、手持ちをポケモンセンターに預けたままの為、空を飛んで脱出する事もできないという。 後先を考えずふらりと散歩に出かけた事が原因と聞いてカナデはこれ以上にない程呆れた。 放っておこうかとも思ったが、必死な様子で縋るヒビキを放置するのも後味が悪く。 仕方なく周囲に何か目印になるような建物がないかを尋ねると、見た記憶がある会社の名前が出てきた。 「カナデーーーッ!!!」 確かこの先だったはずだと角を曲がった瞬間、抱きついてくる影。 「な、ーーーっ」 勢いのあるそれに押し倒され、尻餅をつく。 「良かった、カナデに会えたー!!」 「バ、ヒビキ、離れろ!」 強く抱き締めてくる影、ヒビキにカナデは慌てて腕を突っぱねた。 肩を押されたヒビキはそこでようやく力を緩め、カナデに回した腕を解く。 「・・・なんて顔をしている」 「だ、だって、もうカナデに会えないんじゃないかって思って・・・」 やっとまともに見れたヒビキは、今にも泣きそうに表情を歪ませていた。 「迷子くらいで大げさな・・・」 「大げさじゃないよ!カナデに会えないのは僕にとっては死活問題なんだから!」 力説するヒビキに、カナデは本日何度目になるかわからないため息を大きくついた。 「なら手持ちくらいちゃんと連れ歩いておけ。次に迷子になってもオレは助けないからな」 |