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桜吹雪の恋人達


*橙色様リク:NトウとヒュウキョウのWデート



「トウヤがボクとデートをしてくれないんだ」


野生のポケモンのごとく草むらから飛び出してきたNは、そう言ってしょんぼりと肩を落とした。

うーん、と思案しながらキョウヘイは鞄から取り出したおいしいみずを手渡す。

彼が唐突に現れるのは今に始まった事ではなく、その対応も手慣れたもの。

そして彼が毎回持ちかける話も、なんてことはない恋愛(…というより彼の想い人)相談だ。

かくいうキョウヘイも恋愛経験が豊富というわけではないが、出来るかぎり中々素直にならない恋人を持つ彼の力になってあげたいと思う。


「…あ」


Nの後ろをゆったりと通るメブキジカを見て案が閃いた。


「何か思いついたのかい?」


おいしいみずを飲み、いつになく早口と共に期待の眼差しを向けるNに、一つ頷く。





そこは、最も早く桜が花をつける事で有名な名地だった。

一足早く春気分を味わいたい観客が集い、それに合わせて屋台が並ぶ様は、一種の祭りのよう。

ほぼ白にしか見えないものから濃厚なものまで色様々な桜吹雪が美しく風に舞う中、トウヤははめられた、と項垂れた。

その隣では、上機嫌でトウヤの腕をとるN。

ほぼ引きずられる形で人混みの中を歩きながら、前方でヒュウと談笑するキョウヘイを恨みがましい目で見る。

トウヤがキョウヘイに桜を見に行かないかと誘われたのが数日前。

特に予定もなく、頷いたのだが。

いざ待ち合わせ場所に出向いてみれば、キョウヘイとヒュウ、そしてNの姿。



いや、確かに他に誰が来るのか聞いてなかったけど…!



事前確認をしなかった自分を殴りたい。


「トウヤ。あれ食べたい」


くい、とNが袖を引っ張った。

見ればその屋台にはわたあめが売られている。


「はいはい」


引かれるままに屋台に赴き、一つ購入する。

それをNに渡せば、満面の笑み。

そのあまりに嬉しそうな表情に、直視出来なくて顔を背ければ、


「トウヤ」


名を呼ばれる。


「何―――」


口元に指を突っ込まれた。

驚いて、噛まないよう慌てて喋る動きを止めれば、口内に広がる甘い味。


「どうだい?」


瞬く間に溶けて消えてしまったそれを飲み込み、トウヤはNを睨んだ。


「いきなり人の口に手を突っ込むな。危ないだろ!」

「ふふ、ごめん」


まったく反省の色もなく謝罪の言葉を口にしたNは、甘味の正体、わたあめを自身の口に含む。


「間接キス、だね」

「な…っ」


ペロリ、と舐めた指は、確かにトウヤの口にわたあめを運んだ方の手で。

瞬時に顔を真っ赤にしたトウヤに可愛いともらしたNは、そのままトウヤを抱き寄せた。





「うまくいったかな?」


その少し離れた所で二人の様子を見守っていたキョウヘイは、林檎飴を舐めながら呟いた。


「どちらかといえばうまくいった方じゃないか?」


それを持つ手を引いたヒュウが、ガブリとかじりつく。


「それより、オレもオマエとデートを楽しみたいんだけど」


あまり他の男ばかり気にしてると怒るぜ?

囁かれ、しょうがないなぁ、とヒュウの指に己の指を絡ませた。


「奥にある大きな桜の木まで、手を繋いでいてもいい?」

「ああ。桜までじゃなくて、ずっと繋いでてやるよ」


見上げながら小首を傾げたキョウヘイに、ヒュウは一つキスを落とした。





―――



リクエスト、ありがとうございました!





あきゅろす。
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