鳩様より *鳩様より頂きました! ディセンダー+ユーリ+アスベル 誰も居ない筈の食堂から鍋の煮える音と包丁がまな板を叩く音が聞こえてくる。 時間は当に深夜を過ぎ、若干空も赤みを帯始める時間だ。 ガルバンゾに寄るなら序でに温泉に行きたいと言い出したアンジュの、まさに鶴の一声で早々に温泉行きが決まると昼頃には神がかり的な早さで仕事を終わらせ、ギルメンは一様に小さな荷物を抱えて温泉に向かった。 勿論、何人か船に残りはしたがこの際だから、と船を降り町に出ている。 多分今日は帰らないだろう、と夕飯も作らなかった訳だが、どうやら正解だったようだ。 規則正しいギルドでの生活も人が居なければ、大体自堕落な物へと変貌して仕舞うもので。 そうでなければこんな時間に食堂で夕飯も夜食も通り越した、なんと形容すればいいのか解らない料理なんて作ったりしない。 鍋の蓋が上下に震え出したのを見て、カムイは火を弱火にするとシンクの脇に置いておいた缶ビールを覆った。 飯より酒。 酒こそ至高。 この不純極まりない思考の持ち主たるディセンダーが、酒を呑む時間を割いてまで鍋の相手をするのには理由がある。 アスベルとユーリだ。 元々ユーリがいける口だと知っていたカムイが数少ない居残り組のユーリを誘ったのが、確か22時頃だった筈。 そこからダラダラと酒を呑み、仕舞いにはレイヴンやクラトスといったアダルト組の隠し財産たる酒にちゃっかり手を―勿論、全て一口で止めはしたが―出したりと、随分やりたい放題やっていたらそこに腹を減らしたアスベルが姿を現した。 今思うとあそこでサンドイッチでも作って持って帰らせればこんな事にはならなかった気がするのはどうしてだろう。 何を隠そうアスベルは酒乱だったのだ。 廊下は寒かったでしょう、なんてアスベルが酒乱だなんて知らなかったカムイは100%の善意でその場にあった一番甘口の果実酒を差し出せば、アスベルも一口だけなら大丈夫だろうと安易に考えたのか果実酒を飲み干した。 甘い酒は大体呑み易い物が多い。 度数はどうであれ、それこそジュース感覚で流し込む連中も居るくらいだから、この船での消費率は非常に高い。 ただ、酒を呑める年齢に達していない者達を除いた連中は総じて酒に強かった。 それが災いしたのか、それとも多量の酒が入っていたが為に珍しくハイになった思考が追っつかなかったのか。 黙々と果実酒とカクテルを流し込んでいくアスベルのあからさまな異変にすら気が回らなかった。 「ゆーりぃ。…かーむいー」 食堂に響いた猫なで声にカムイは素早く席を立つと、だらしなくテーブルに身を任せるアスベルの顔を覗き込んだ。 目の焦点が合っていなかった。 にへらぁ…と笑ったアスベルは何を思ったのか上体を起こすとユーリのタンブラーを引ったくり一気に煽った。 「あ」 カムイの引き攣った顔と、ユーリの間の抜けた声。 どろりとした液体がゆっくりと呑み干されていく。 しかし、呑んでしまったタンブラーの中身、マッド・スライドが帰ってくるわけも無く。 「…熱い」 その一言と共にアスベルの暴走が始まった。 ※ 「ちょ、待て待て待て待てっ早まるなアスベル!」 「ゆーりのおなかはきれいだなー」 「確かにそうで御座いますねぇ」 「て、めっ見捨てんなよ!」 乱雑に脱ぎ散らかされた寝間着と放り投げられたブーツにカムイは気が遠くなりそうだった。 所謂、悪い方向で。 正直脱ぎ出した辺りから、アスベルが古典的な脱ぎ魔であり酷い絡み癖がある事は窺い知れたが、流石にここまで酷いとは想像もしなかった。 食堂の床に押し倒されたユーリの上に馬乗りになって、両手でそれはそれは楽しそうに腹筋を撫で回しているアスベルの表情は常日頃と比べ物にならない程笑顔を振り撒いている。 それを足を組んでグラス片手に傍観していたカムイは「どーしましょうねー」と完全に他人事だ。 どこまでもマイペースなカムイは酒が回って動きの鈍くなったユーリの脇腹を気紛れに擽ったり、アスベルの背筋を素足の爪先でゆっくり撫でたりして遊んでいた。 しかもその反応を酒の肴代わりしていた。 「んあ!」 「ひぅ!」 「え、なにこれエロい」 身を捩り艶っぽい声を洩らす二人に、ついつい薄笑いを浮かべながらもう一度アスベルの背中を撫でる。 「ふぁぁ!」 二度の不意討ちを食らってアスベルがあられもない声を上げてユーリの上に倒れ込むと、ユーリは力の入らない腕を上げて無意識にアスベルの腰に腕を回した。 「あ、ゆーり…あつぅ」 ユーリの鎖骨辺りに頬を擦り寄せるアスベルに、ユーリは声を上擦らせた。 「う、ごくなって…やめ、こすれて、ひぁ!」 なにこの百合っぷる。 二人とも揃って白い肌をしているものだから矢鱈と頬の赤みが強調されて、しかも酒の力も加わって色々と不味い方向へ転がり始めている気がするのだが…。 「かむいぃ」 「か、むい」 蕩けた笑顔を見せながら名前を呼んでくる二人に沸騰しそうな思考を抑え、取り敢えずトイレに駆け込んだ。 そして漸く冒頭へ辿り着く。 結局、そのまま寝落ちした二人を抱えドクメントを調整してテーブルや椅子を消すと代わりに出現させたL型ソファーに寝転がしてた。 一仕事終えて食堂の掛け時計に目をやれば、丁度5時だ。 そろそろ朝食の準備を始めた方が良いだろう、と朝飯用にと準備しておいたポトフの鍋に火をかける。 序でに隣のコンロに牛乳と蜂蜜を入れたミルクパンも火にかけておいた。 「くれーぷ」 「かれー」 ソファーから聞こえる良く解らない寝言をBGMに、カムイは「はいはい、承知致しました」と小さく呟いて、鍋の中にカレー粉とタルトタタンになる筈だった林檎を放り込んだ。 あとは、もう寝るだけだ (アスベルはとても愛らしいのですね、知ってましたけど。今度は二人で呑みたいものです。…今度は甘い物で釣ってみましょうか) 懲りずに企むディセンダーを止める者は居ない。 ――― お言葉に甘えてリクエストしたら、素敵な小説を頂いてしまいました! 鳩様、ありがとうございました! |