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GO! U


「ちょうどユーリ達が通りかかってくれて良かったよ」


笑顔を浮かべ、クレスが言う。

そういや、とユーリはシングを見た。


「何でまた落ちかけてたんだ?」

「扉を開いて進もうとしたんだけど、道がない事に気づかなくて・・・」


そうして落ちる手前で慌ててクレスとカイウスがシングの手を掴み、宙ぶらりんの状態になっていたらしい。


「・・・この床は、落下に備えたもの・・・か」


納得したようにヴェイグが呟く。

なるほど、確かにそう言われてみるとここの床がぶにょぶにょしている理由にしっくりくる。

ギルド協会が用意したステージだ、彼らも不用意な大怪我を負わせるつもりはないのだろう。


「・・・で、何でカイウスはさっきから黙ってるんだ?」


ユーリは着地して以降一言も喋らないカイウスを見る。

ビクン、と肩を跳ね上がらせたカイウスは、きょろきょろと周囲を見回した後、眉尻を下げた。


「あのさ・・・ここ、古い建物っぽいだろ?」

「うん、確かに古いよね」


シングが頷く。


「だから、さ。ゆ、幽霊とか出ないかな・・・って」

「・・・そっか、君は確か、幽霊の類が苦手だったね」


カイウスは幽霊が苦手だ。

ここは薄暗く、見える範囲すべてが不気味でいかにも何かが出そうな雰囲気である。

その空気にあてられて怯えるのも無理はない。


「大丈夫!何が出てもオレ達がついてる!」


シングの明るく心強い言葉にカイウスも少しは安堵したのか。


「そ・・・そうだな」


強張っていた表情に、ほんの少しだが笑みを浮かべた。


「ま、ここから先、何が出るかはわからないけどな」


目指していた金ピカの扉にようやく辿り着き、ドアノブを開く。

ギイイ、と見た目に反して軋んだ音が大きく響いた。

開いた先には不気味に光る無数の目。

咄嗟にユーリは開いたばかりの扉を閉じる。


「・・・見たか、今の」

「うん・・・見たよ」

「何か、いたね」

「・・・・・・」


振り返り、今見たモノが幻か否かを問えば、揃って頷かれる。

カイウスに至っては血の気が引いている様子だ。


「も、ももももしかしてあれ抜けないと・・・!」

「他に出入口はないんだよね?」

「少なくとも、オレ達が通った所には別のルートはなかったな」


な、とヴェイグに話を振れば、ヴェイグも通ってきたルートを思い出しつつ同意する。

ぽん、とカイウスの肩に手を置くクレス。


「突破しよう!」

「よし、せーの、で突っ切るぞ」

「ま、待ってくれ、まだ心の準備が・・・!」

「行こう、カイウス!」


ユーリは扉を開け放ち、その先にうぞうぞと蠢くアンデッド系モンスターの群れに突っ込んだ。

剣を抜き、先陣として次々と斬り捨てていく。

然程強くはないのか、あっさりと撃破されていくモンスター達。


「見えた!」


モンスター達の群れの向こうに扉があった。

蹴破る勢いで開け放ち、殿を買って出てくれたヴェイグまで潜り抜けた所で扉を閉める。


「はぁっ、はぁっ、何とか抜けられた・・・」

「カイウス、大丈夫?」

「あ、ああ、もう無我夢中で・・・」


多少乱れた息を整えていると、カイウスが中途半端に言葉を区切った。

その視線がある一ヶ所に釘づけになっている。


「これは・・・」


剣を鞘にしまったクレスが近づく。

そこにあったのは、燭台の蝋燭の炎に囲まれた二つの棺。


「?中に何か・・・」

「ぎゃあああああ、クレス、開けるな───っ!」


何を見つけたのか、蓋を開けるクレスにカイウスが悲鳴をあげつつシングに全力で抱きついた。


「カ、カイウス、苦し・・・」

「ユーリ、来てくれ」

「どうした。何が入って・・・」


手招きされて警戒しつつクレスの側へ向かったユーリは、開かれた棺を覗いて目を眇めた。


「・・・何でこんな所で寝てるんだ、こいつら・・・」


そこにいたのは、気持ち良さそうに熟睡するスタンとカイルだった。





一度寝つけば叩いても揺さぶっても起きない彼らの強すぎる睡眠欲を知っているユーリ達は、仕方なく彼らを負ぶって連れていく事にした。

燭台の金具で棺を叩いて大きな音を立てようとも考えたが、それで起きるかどうかはわからないし、何より蝋燭の火が燃え移って火事にでもなったら一溜まりもない。

スタンはヴェイグが、ユーリがカイルを背負い、棺桶の向こうにある古い扉へ向かう。

クレスが扉を開けようとして、


「・・・あれ?」


その扉に肝心の取っ手がない事に気が付いた。


「引くわけでも押すわけでもないみたいだな」


実際にカイウスやシングに扉を押させ、引かせてみたが、扉はピクリとも動かない。


「あ、見て!」


シングが扉の横を指差した。

壁に同化して見えずらいが、よくよく見ればプレートらしき物がある。


「なになに、『相対せし棺に安らかなる眠りを捧げよ』・・・?」


ユーリが読み上げた一文に、全員の視線が棺へと向いた。


「棺って、あれだよな・・・?」

「安らかな・・・眠り・・・?」

「おい、まさかこいつらの事じゃないだろうな?」


今は何もない棺。

しかし先程まではスタンとカイルが寝ていて。

「棺」、「安らかな眠り」、二つのキーワードから導き出されるのは、どう考えても棺の中に何かを横たわらせろ、という結論で。


「でも、彼らを置いていくわけにはいかない」


クレスが首を横に振る。

それに同意するように頷くヴェイグ。


「あ。ねぇ、棺の中に入れるのって何でもいいのかな?」

「何でもっていうわけにはいかないだろ、さすがに・・・」

「なら、アレは?」


ユーリはこの部屋へ移動する時に通った扉を指差した。

正確には、その向こうにいるモンスター、だが。


「棺といえば死者、死者といえばアンデッドだろ。十分かわりになると思うが、どうだ」

「・・・いいと、思う」

「僕も賛成だ」

「オレも!」


ヴェイグ、クレス、シングの同意に続いて激しく首を横に振るカイウス。


「ま、ままままま待てよ、それってまたあのモンスターの群れに突っ込むって事じゃ」

「で、だ。オレとヴェイグはスタンとカイルを背負ってるから碌に動けないし。おまえら三人に任せる事になるが、いいか?」

「もちろん!任せて!」

「よし、それじゃ、早速棺二つ分のモンスターを捕獲しよう!」

「い、嫌だぁぁぁぁぁぁっ!!!」


両脇をクレスとシングに固められ、ズルズルと引きずられていくカイウスの悲鳴が木霊する。


「・・・ちっとばかし可哀想だったか?」


パタン、扉が閉じた後、ポツリと呟けば、ヴェイグが物言いたげな眼差しを向けた。





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