GO! T
『チームで迷宮に挑戦!見事脱出出来れば報酬は貴方達のギルドのものに!』
バンエルティア号に届いた一通の怪しい通知。
それを真っ先に読んだアンジュは、それはそれは輝かしい笑顔でこう言った。
「あなた達、頼んだわよ」
「こりゃまた本格的だな・・・」
「START」と書かれた扉を前に、ユーリは呟いた。
ギルド協会と名乗る者達───通知の差出人らしい───に目隠しをされ、馬車で連れて行かれた先。
目隠しを取ってもいいと言われ、ようやく両目を覆っていた布を取れば、どこかの屋敷の一室に移動させられていたようだ。
どこだここ、とユーリは警戒しながら周囲を見回す。
屋敷、といっても随分長い間使われていないのか。
最低限の家具しか置かれていない室内は埃っぽく、よく見れば隅には蜘蛛の巣が張られている。
見覚えのない光景だ、依頼などでも訪れた事はないだろう。
愛剣を確認し、知らない間に取り上げられていない事を確認してユーリは扉のドアノブを回した。
ガチャ、金属が引っかかる音。
ノブは回ったものの、鍵がかかっているのか開かない。
ドアノブをよく見れば鍵穴と思しき穴がある。
「鍵を探せってか」
どうやらこの部屋に連れてこられた時点で『脱出』は始まっていたらしいとすぐに見切りをつけたユーリはまず手始めに埃を被りすぎて灰色っぽい色になってしまっている棚へ寄った。
ドゴォン!
「うおっ!?」
突然棚のすぐ隣の壁が、破壊音と共になくなった。
もうもうと立ち込める埃。
何か出てくるのか、柄に手をかけたユーリは、巨大な穴を覗き込む。
「・・・ユーリか?」
向こう側にはこちらと同じ風景の一室。
その脇に巨大な棚を置いた人物を見てユーリは唖然とした。
「ヴェイグ?」
青みがかった長い銀髪を三つ編みにした長身は見間違えようがない。
「つか、え、棚、え?」
そしてこれも見間違いでなければこの青年は今、ユーリの背丈以上にある棚を片手で軽々と持ち上げて移動させていなかったか。
こちらへと入ってきたヴェイグが棚を振り返る。
「・・・引き出しが開かなかったから・・・引っ張った」
「・・・そうしたら壁ごと棚を引っこ抜いたってか」
こくんと頷いたヴェイグにユーリは明後日の方向を見た。
きっとあの棚は何も入っておらず、非常に軽くて、壁もまたとても薄くて脆かったのだろう。
そう思い込む事にする。
「んじゃ、気を取り直して・・・っと」
棚の引き出しを開けると、すぐに鍵を見つけた。
鍵穴に差し込み、回せばカチャン、解錠の音。
扉を開けば、薄暗く床が所々抜けた長い通路が見えた。
右側は壁で、どうやらこの部屋は突き当たりになるらしい。
「ヴェイグがいたのは・・・隣の部屋だよな」
左側を見て、ユーリは眉根を寄せた。
隣に続くのは壁だけで、扉がない。
壁を壊していなければ脱出すら出来ていないかもしれない可能性に、ヴェイグが緩く首を振った。
「・・・行こう」
通路をしばらく進むと、扉が見えてきた。
今度の扉は鍵はかかっていないようで、あっさりと開く。
「ん?何だ、この床」
木製でギシギシと軋んでいたそれらとは異なり、ぶにゅぶにゅと不安定な足場。
「・・・生き物の上では、ないが・・・」
膝をつき、手で感触を確かめるヴェイグにむしろ足場が生き物の上では恐ろしいだけだと思う。
「・・・あっちに別の扉があるな。あそこから抜けれるか」
遠方にやたらと金ピカに輝くド派手な扉があり、目指そうと歩を進めようとして、
「わあっ!!」
「危ない!」
「?」
頭上から降ってきた切羽詰まった声音にヴェイグと二人して見上げた。
数メートルの高さはあるだろうか、壁の一部が開いており、そこから見慣れた姿が三人分見える。
しかもその内の一人は宙に放り出されようとしていて、二人がその手を掴んで落とさないようにしている、といった様子だ。
落ちてきても巻き添えを喰らわないよう距離を置き、ユーリは声をかけた。
「何してんだ、クレス、シング、カイウス?」
「え・・・ユーリかい?」
落ちかけているシングを引っ張りあげようとしていたクレスが眼下にユーリとヴェイグの姿を見つけ、目を瞠った。
「・・・あれ?もしかしてそんなに高くない?」
声につられて下を見たシングが首を傾げる。
「高くはないと思うぞ。床、弾力性もあるしな」
「よし、じゃあオレ、飛び降りてみる!」
クレスとカイウスに手を離すよう伝え、シングが飛び降りた。
ぼふん、と着地の衝撃を和らげる柔らかい床。
「おっと」
反動でユーリとヴェイグの足場が揺れたが、すぐに体制を直した。
「クレス、カイウス、飛び降りれるよ!」
「よし、じゃあ僕達も降りよう!」
「あ、ああ」
続いてクレスとカイウスも飛び降りてくる。
ぼふん、ぼふん。
床が二度に渡って波打った。
無料HPエムペ!