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「・・・おやすみ」


*「青春謳歌!」設定



もうそろそろで日付が変わろうとしていた時刻の事だった。

ピンポーン、と高らかに鳴る来客の知らせ。

こんな時刻、それも自分の部屋にとは珍しいと、就寝の支度をしていたNは扉へと向かった。


「・・・トウヤ?」


鍵を解錠し、開けばそこにはNが愛して止まない後輩の姿。

気丈な眼差しと態度を持ってNを振り回す彼は、しかしどこか様子がおかしい。


「N・・・」


Nの長身を見上げたその双眸は、不安げに揺れていた。

これは何かあったのか。


「上がって」


トウヤの肩を抱きつつ、Nはトウヤを室内に招き入れた。

普段ならば触れただけで恥ずかしがって手が出る筈のトウヤは、Nにされるがままにリビングへと歩く。

やはりこれは何かがあったのだろうと、トウヤをソファに座らせてNは台所へと向かった。

牛乳に砂糖を加え、小さな鍋で温める。

その匂いに釣られたポケモン達には、専用のミルクを与えた。

程よく温まった牛乳を二人分カップに注ぎ、それらを持ってトウヤの隣に座った。


「飲んで」


カップを握らせると、トウヤはそれをゆっくりと飲み始めた。

Nはトウヤの柔らかい髪を撫でながら、自身も牛乳を飲んだ。

人肌程度の温かさが舌に触れる。

口内に広がる甘みは丁度良い。

二口、三口、とトウヤが半分程牛乳を飲み込んだところでNは声をかけた。


「こんな時間にどうしたんだい?」


休日の昼間であればともかく、トウヤがこんな夜遅くにNの部屋を訪れた事はない。

というのもトウヤ自身がNが寄せる想いを知っている(というよりNの方が惜しげもなくぶつけている)ので、警戒しているのだ。

逆を言えばこんな時間に部屋を訪れている今こそが組み敷くチャンスでもあるのだが、今のトウヤをどうこうする気持ちはNには芽生えなかった。

トウヤの手がNの服を掴む。

控えめで、あまり力が入っていない。


「・・・N」

「っ!?トウ───」


だから油断した。

ぐい、と引かれ、Nの上半身がトウヤに向かって倒れた。

トウヤを下敷きにするわけにはいかないと咄嗟にソファの背もたれを掴む。

そのNの背に両腕を回し、トウヤが抱きついてきた。

滅多にない、というより皆無であったトウヤからの密着に、Nは身を強張らせた。

これは一体何の幸せな夢かと、思わず自身がいつの間にか眠ってしまっている事を疑う。

Nの胸元に頬を擦り寄せて、トウヤがポツリと呟く。


「・・・夢を見たんだ。・・・Nに、『嫌い』『二度と目の前に現れるな』って言われる夢を・・・」

「トウヤ・・・?」

「でもお前がそんな事言う筈がないよな・・・。はは、オレ、何でこんな夢見たんだろ・・・」

「トウヤ・・・」


Nはトウヤの小さな身体を抱き締め返す。


「もしかしてボクが拒絶するかどうかを確かめる為に会いに来たのかい?」

「・・・」


トウヤは答えなかったが、その身体が一瞬ピクリと跳ねた。

それが肯定を示している事にNはくすりと笑う。


「心配しなくてもボクはキミを嫌いだと拒絶する気は一切ないよ。ボクの気持ちはいつでもキミへのラブで溢れているからね」

「は、恥ずかしい事言うな・・・!」


顔を上げたトウヤの顔は真っ赤だった。

その額に唇を落としつつ、Nは囁くように言う。


「キミがこうしてボクを抱き締めて・・・甘えてくれるだけで胸が爆発してしまいそうなんだ。そんなボクがキミを嫌いだなんて言うと思うかい?」


トウヤの首が小さく横に振られる。

同時に彼の抱き締める手が強くなって、Nもまた力を苦しめない程度に強めた。


「そうだ、またそんな夢を見ても杞憂だとわかるように一緒に寝ようか。目が覚めてすぐ近くにボクの顔があったら、安心だろう?」

「え」


トウヤが身を固くする。

そんな様子にお構いなくNはトウヤの身体を抱き上げ、寝室に向かった。


「というよりボクがキミと一緒に寝たくなったんだ。もちろん、ポケモン達も一緒だけどね」

「・・・し、仕方ないな。今日だけだぞ・・・」


寝室に入れば身を寄せ合って好きな場所で眠っているポケモン達の様子が目に入ったからか、トウヤがポツリと了承を出した。

トウヤの身体をベッドの上へ優しく下ろし、Nもまたその隣に身を横たえる。

毛布を被った瞬間にカップを片づけ忘れた事に気づいたが、明日でも大丈夫だろうと意識から追い出した。


「おやすみ、トウヤ。良い夢を」

「・・・おやすみ」


同じベッドの中、トウヤがそっと身を寄せてきた。

その身体を腕に抱きつつ、Nは目を閉じる。





翌日、あまりに近過ぎたNの寝顔に驚いたトウヤが拳を打ち込んでしまったのは、Nにとって強烈な目覚めとなった。





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