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入学式に恋の歌


*学パロ



学校には隠れた校歌が存在する。

決して表立って歌われる事はなく、音楽の教科書はおろか、学生証の隅っこにすら書かれているかどうか定かではない。

だがその歌は、確かに記憶となって生徒達の中に息づいている。

さて、ここで疑問が一つ。

何故存在感が限りなく0に近いこの歌が、生徒達に知れ渡っているのか。

それは毎年行われる入学式で、誰もが理由を知る事になる。





入学式におけるスピーチは、校長だけに限らず誰においても長いものだ。

初めは緊張の面持ちで式に挑んでいた新入生も、式の終わりに近づく頃には集中力が切れ始め、欠伸を噛み殺したりよそ見が多くなってくる。

残すは後数名。

時間にして数十分、というところでそれは起こった。





突然、フッと消えた照明。

窓という窓をすべて閉めきり、紅白の布で覆っていた式場は暗闇に包まれ、瞬く間にざわめきが広がる。

静かに、と若干取り乱した様子で静粛を求める司会の声も皆の耳には届いていないようだ。

その最中、マイクを通したガツンという音と、「ぎゃあ!」照明が消えるその瞬間までスピーチを行っていた男性の短い悲鳴。

パッと、天井高くにあるすべての蛍光灯に明かりが戻る。

司会の声を聞く気はなくても明らかに不穏な物音を聞き逃すつもりはないのか、式場に居合わせた者すべてが注目する舞台には、三人の男子生徒が立っていた。

新入生全員に配られているコサージュがないので、この三人が在校生であるのは一目でわかる。

マイクやスピーカーを手に持ち、その足元には恐らく殴られて気を失っている男性の姿。

向かって右側、片手に持ったスピーカーを口元に近づけた男子生徒が口を開く。


「二年、ヒビキ!去年は失敗しちゃったけど、今年は絶対に成功させるよ!あの歌をカナデに捧げる!」


ざわり、一際ざわめきが酷くなる。

新入生や父兄からなんだあれは、の声。

在校生からは今年もやるのかと興味深い声、教師や入学式の進行を手助けする生徒会役員からは絶句。

ヒビキ、と名乗った男子生徒の隣、真ん中の若草色の髪の男子生徒がマイクのスイッチを入れる。


「…三年、N。トウヤに捧げさせてもらうよ」

「同じく、三年のレッド。…グリーンに」


左側の男子生徒、レッドが、手元のリモコンを押す。

と、スピーカーから流れ出した音楽。


「な…、レッド、お前ぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

「N、お前まで何やって…!!」

「…あの、馬鹿が!!」


直ぐ様駆け出したのは、三人に名を出された男子生徒で。

恥ずかしさと、三人の言動の意味を知る故に止めようと舞台に上がれば。

それを見計らい、捕まる気はないと言わんばかりに歌いながら舞台を飛び降りた。


「誰かそこの馬鹿達を捕まえろ、今すぐに!!!」





学校には隠れた校歌が存在する。

決して表立って歌われる事はなく、音楽の教科書はおろか、学生証の隅っこにすら書かれているかどうか定かではない。

だがその歌は、確かに記憶となって生徒達の中に息づいている。

さて、ここで疑問が一つ。

何故存在感が限りなく0に近いこの歌が、生徒達に知れ渡っているのか。

その理由は、この校歌にまつわるジンクスにある。

入学式の日、この校歌を無事歌いきる事が出来れば、歌を捧げた相手との永遠が約束されるからだという。

そして今年もまた、ジンクスにあやかる為に生徒達が恋の歌を捧げる。





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