冬眠中
N(→)トウ(♂)+レシラム
思えば、彼は目を離すと寝てばかりいるような気がする。
白い羽毛に顔を埋め、身を縮めて健やかに眠る愛しい人を眺めながら、ふと思う。
せっかく時間を縫って会いに来たというのに、彼は、トウヤはとっくに夢の世界だ。
手を伸ばし、指先に茶色の跳ねた髪を絡める。
つん、と軽めに引っ張ったところで起きる気配はない。
余程深く熟睡しているのだろう。
陽射しの暖かい日中とはいえ、不用心な。
「・・・ん・・・」
小さな、鼻に抜けるような吐息を漏らして、トウヤが身じろぐ。
起きるかと多少の期待を込めて、眠っていれば年相応の顔つきになる少年を見やるも、もぞもぞと白毛にしがみついただけで閉ざされた瞼が開かれる事はなかった。
あくまで昼寝の時間を貪る彼の上に、ばさり、と静かな羽音。
空気に含まれた冷気を遮るように覆いかぶさる白い翼は、トウヤを主と定めた白い竜のものだ。
純白に埋もれ、何の警戒心もなく身を委ねる主を愛おしそうに囲う彼に、Nは羨ましくも恨めしい視線を送った。
「キミばかり、ずるい」
主に従って自らも身を休めようとするその蒼い眼が、何が、と言わんばかりにNに向けられる。
トウヤの信頼を勝ち取っている、トモダチの片割れ。
・・・トウヤは、Nにはこんなにも無防備で無邪気に身を預ける事はしない。
野良猫のように常に警戒し、必要とあればどつくという名の爪を立ててくる。
フン、とレシラムが鼻で笑う。
自業自得、身から出た錆。
Nの所業をそうのたまった白い竜は、話は飽きたとばかりに柔らかな羽先でNを押しやった。
「んん・・・?」
日も暮れかけた頃、ひやりと忍び寄る冷たさに意識を起こされたトウヤは、重い瞼を開いた。
薄暗く、赤みの強い橙の光が寝起きの双眸に突き刺さる。
昼に比べて柔らかいとはいえ、光をシャットダウンしていた目には少しばかり辛い。
寝すぎた、と欠伸を漏らしたトウヤは、ふと違和感のようなものを感じた。
「レシラム、誰か来てた?」
トウヤの目覚めに気づき、そっと片翼をどかした白い竜に尋ねる。
首をもたげたレシラムは瞬きし、『何でそんな事を?』と問わんばかりに頭を傾ける。
「誰かが、触ってたような・・・」
夢の中で、かもしれないが、誰かに触れられていた気がする。
それは嫌悪をもたらすものではなく、寧ろ逆に。
「・・・まぁ、気のせいだよな」
うんと伸びをして、眠気を払う。
そろそろ泊まる場所を探さなくては。
心地良かった眠気に後ろ髪を引かれるような奇妙な心地があったが、レシラムの背に跨る頃にはすっかり霧散して訪れた夜に消えていった。
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