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苺の髪飾り


*Nトウ(♂)



「どうするかな」


さわさわと、葉が擦れる音が耳に心地良い森の中。

休憩にと、大きな木の根元に腰掛けたトウヤは、手に持ったそれを木漏れ日に翳す。

仄かな赤色に透けるその硝子は、苺の形をした髪飾りだった。

しかもご丁寧にゴムも付いているので、これ一つでオシャレと髪結いの両方を兼用できる。

しかし残念ながら、ゴムで一つに束ねられるほどトウヤの髪は長くない。


『Nにでもあげたら?きっと喜ぶわよ』


同じ物をたくさん貰ったからと、苺の髪飾りをくれた(押しつけられたともいう)双子の姉の言葉が脳裏を過る。

トウヤは眉根を寄せた。

なぜ女の子に、ではなくN。

百歩譲って彼にあげるとして、苺の髪飾りなど貰っても微妙な気持ちになるだけだろう。

Nにあげるという選択肢をひっそり消しつつトウヤはおいしいみずに口をつけた。


「やぁトウヤ」

「ッ!!?」


冷たいそれを嚥下しかけたところで背後、それも上から覗きこんできた顔に、危うく吹き出しかけた。

慌てて口を抑え、飲みこむ。

あらぬ所に入らなかったのは奇跡だ。


「っ、N、突然現れるな!」

「ふふ、ごめんね」


謝罪の言葉を口にしつつも、つい先程まで思考に浮かべていた人物、Nの顔は笑っている。

じと、と睨んだトウヤは、前方に回りこんだNにふと違和感を覚えた。


「どうかしたかい?」


怪訝そうなトウヤに気づき、Nも首を少し傾ける。

合わせて広がる、新緑色の髪ーーー。


「あ、髪か!」


違和感の正体がわかって思わず叫ぶ。

いつもならくくっている髪が、珍しく束ねられていないのだ。

ふわふわと広がるその状態は、まるでエルフーンのようである。


「髪、どうしたんだ?」


「これかい?さっき、ヒヤッキーに欲しいと強請られてね」


あげたんだ、と苦笑いを浮かべたNのその時の様子が目に浮かび、トウヤは呆れた。

Nの事だ、後々を考えずあげたに違いない。


「トウヤはゴムを持っていないかい?」

「あー、あるにはあるんだけど」


トウヤは手の平に転がしていた苺の髪飾りをNに差し出した。


「これしかないぞ」


さすがに嫌がるよな、と思っていたが、


「貰ってもいいかい?」


むしろ欲しそうな眼差しで見つめてくるN。


「こんなので良かったら・・・」

「ありがとう!」


嬉しそうに笑顔を浮かべ、苺の髪飾りを受け取ったNは、いそいそと慣れた手つきで髪を結い始める。


「お礼にキスでも」

「やめろ」


顎に手をかけようとしたNの手を、すかさず払った。


『ね、言ったでしょ。彼は喜ぶって』


姉の声をした幻聴が脳裏で高笑いをしていたが、トウヤは聞かなかったふりをした。





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