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凍った心


*アルギュロス×アスベル。病み&血表現注意。



「・・・何で・・・」


目の前に広がるあまりにも異様な光景に、アスベルは己の身体が強張っていく様を止められなかった。

開いた扉の先、見慣れたはずのバンエルティア号のロビー。

こまめに清掃されている甲斐あって埃も見当たらず美しかったその床は赤黒い色に塗り潰され、その上には、服や肌を同じ色に汚したアドリビトムの面々が無造作に伏している。

辺りに漂うのは、鉄に似た臭い。


「・・・やぁ、アスベル」


地獄絵図のような血溜まりの中、ただ一人立っていた青年が振り返る。

血を吸い上げたかのように全身を赤く染め、こちらを見る顔は。


「遅かったね。誰かに引きとめられていたの?」


吊り上がった唇の端、淀んだ眼差しと共に狂気じみていて。


「・・・アルギュロス・・・一体・・・」


信じたくはなかった。

だがこの現状と、彼の様子が一つの結論に結びつく。


「もうわかってるんでしょ?・・・僕はね、」


一歩、アルギュロスが踏み出す。

パシャ、水溜まりを踏んだ時のような水音。


「もう耐えられないんだよ。君が僕以外の誰かと親しくしているのが」

「だから・・・って・・・」


アルギュロスが一歩分近づくと、アスベルもまた後方へ下がる。

普段のように微笑を浮かべた彼が、怖い。


「そこで思ったんだよ。君以外を消せば、君が僕以外の誰かを見る事はないって」

「・・・こんな事は、間違っている」


震えそうになる声音を叱咤し、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「人を、殺すなんて・・・」

「殺す?」


愉快そうに、アルギュロスが笑う。


「僕は殺したんじゃない。君にすがる害虫を潰しただけだよ」

「っ!」


何に引っかかったのか、アスベルは背中から転倒してしまった。

床についた衣服がどこまでも広がっていく赤を吸い、汚れていく。

さらに汚すように、アスベルの上に跨ったアルギュロスが肩を押した。

パシャン、背後のすべてが血に浸ってしまう。

勢いに跳ねた血が顔等も濡らしたが、気を回している余裕はなかった。


「さあ、アスベル。邪魔は消した。これからは僕と君の二人っきりだ」


歪んだ表情の奥でアスベルを見下ろす目は、ゾッとする程冷たかった。





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