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我が本丸の景趣事情


本丸を包む景色は主たる審神者によって如何様にも変えられる。
どの四季にするかは審神者の気分次第で、暦に合わせた移ろいを楽しむ者もいれば、気に入った景色を固定する者もいた。
この本丸の審神者は後者である。
とはいってもそれは単に趣向にあったというわけだけではないらしい。
何故その景色だけを反映させているのか、それを知っているのは多分いないだろう。





サアア、と静かに雨が降り注ぐ。
鉛色の天空から落ち行く細やかな水滴は屋根を打ち、木の葉を打ち、地に、池にぶつかっては小さな波紋を作った。
遠くを見やれば薄っすらと光差す陽光が見える。
だがそれがこの本丸を照らす日は、ない。
今日も今日とて梅雨日和。
縁側に座り、何をするでもなく頬杖をついた鶴丸は、詰まらなさそうに烟った景色を眺めていた。
止む事なき霧雨は、鶴丸がこの本丸に顕現してよりずっと続いている。
日夜関係なく柔らかく濡らし、時折風に乗っては部屋に吹き込んだ。

「はぁ・・・退屈だな・・・」

出陣やら遠征やら、または内番で殆どの者が出払っている。
数日続けて出陣した鶴丸は、今日一日休息日だ。
しかし他所様の鶴丸でお馴染みの落とし穴はこの地面がぐずつく天候下では作る事は出来ない。
黴が生える事はないものの、吹き寄せる雨飛沫で廊下が湿って滑りやすいので、驚かせる罠を仕掛けるわけにもいかず。
話し相手もいないとなれば、誠に退屈である。
鶴丸はごろりと横になった。
退屈がすぎると少しばかり眠くなる。
夢の中ならば少しは退屈が凌げるだろうか。
驚きに満ちた夢を期待して、そっと瞼を閉じる。
さあさあと静かに落ちる雨の音。
ほんの僅かに紛れる衣摺れと鶴、と呼びかけた彼の男の声音は、果たして夢か現か。





あきゅろす。
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