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暗闇の先に




「よーう凌!なんか見つかったか?」



俺が部屋を出るのと同時に、凰利も部屋から戻ってきた。先程から何ら変わりのない笑顔で、近いというのに大袈裟に手を振る凰利に、自然に口元が緩む。俺もつられて、小さく手を振り返した。こうしていると、今が大変な事になっていることなど信じられない。でもそんな考えは甘いものであって、周りの惨状が俺を現実へと引き戻す。緩んでしまった口元をすぐに引き締め、ゆっくりと凰利の元へと近づいた。まるで凰利は、この状況に笑えない俺の代わりに笑っているようだ。



「まーた難しい顔しやがってー・・・楽しもうぜ今をよ!」

「どう楽しめっていうんだよ・・・」



もうこいつに対して怒りは沸かない。むしろこれは呆れだ。たとえ感情あろうがなくなろうが、こいつは今という時間に流され、絶対に楽しむという術を知っているやつだ。今思えば、こいつが怒ったりしているところなど、今まで見たことがない。実際のところ、凰利は今までと全く変わらないのでは、という考えが頭を過ぎったが、俺は小さく首を横に振った。


こいつは、変わった。


どこが、と今聞かれたら答えられないが、何かが違う。ただ・・・どこか不気味な雰囲気があるような・・・



「「凌」」



神崎姉妹が部屋から出てきたので思考を中断した。俺の名前だけを呼んだ二人に対して、凰利が俺のことはー?と喚いたが、二人は同時に凰利の額を叩いてこちらへきた。



「いてぇなあもう」

「馬鹿は」
「放っていいです」

「・・・そうだな」



凌までもが!と泣いた振りをしてしゃがみ込む凰利を無視して、俺達は廊下を通って教室に入り、教室のドアを開けて出た。やっとそれに気付き、凰利が走って追い掛けてきた。



バンッ・・・



「・・・?」



下へ続く階段を下りようとしたとき、外から何かの音が聞こえ、凌は足を止めた。後の三人もその音に気付いたようで、息を殺して外に耳を澄ませた。聞こえるのは、いくつかの本当に微かな足音と布擦れの音。一気に緊迫した空気が辺りを包み、俺達の警戒心は強くなった。

下の様子を見て見ようと階段の下を覗く前に、凰利が俺の肩を突いてきた。振り返ると、凰利は右手人差し指を口元に当て、俺に声を出すなと言っている。反対の左手では、更に奥へと続く扉を指していた。確かあの扉は非常時以外には無意味な場所なため、普段は誰も近付かないところだ。実際に中を見たことはないが、凰利はあそこから出ようと言っているのだろう。俺は無言で頷きながら、神崎姉妹の方を見た。二人もにも意図はちゃんと伝わっていたらしく、無言で頷いて俺達は扉の前へと動いた。



「(静かにな)」

「(分かってるって・・・よし)」



キ・・・



鳴ったかどうかすら分からないくらいの音が鳴り、内心冷や汗をかきながら、俺達はそっと部屋の中へ入った。中は暗くてよく見えないが、今迂闊に電気を点ければ見つかる可能性が出てくるだろう。

確か凰利はここを知っているはずだ。いい授業のサボり場所だと紹介されたが、俺のサボり場所は部屋か屋上と決めていたから、ここを使うことはなかった。こんなことになるのなら使っておけばよかった、と意味のない後悔の念を捨て、凰利と一緒に床や壁を探った。



「(あったぞ!)」



凰利が何かを見つけたらしく、俺に手伝ってくれと言った。手探りでその何かを触ってみると、取っ手のような何かがあった。凰利の言う通りにゆっくり横へスライドさせると、小さな明かりが見えた。どうやらここは、非常梯のような状態になっているらしく、この入り口を開くことによって、明かりが点灯するらしい。



「(俺が閉めるから、凌と双子は先に降りてくれ)」

「(分かった)」



神崎姉妹に何かあったら大変、ということで男である俺が先に降りることになった。滑らないように設計してあるとはいえ、結構長い。しかし、ゆっくりしている暇も無く、俺は足早に梯に足を掛けた。梯と足のぶつかる鈍い音しか聞こえない。俺が降り始めたのを確認すると、伽音が先に、次に霞音が降りてきた。そして最後に凰利。



「(ばれないよう入り口閉めるから暗くなるぞ!気をつけて降りろよ!)」



ゆっくりゆっくり入り口が閉まり、縦長の空間に闇が広がってゆく。通気孔からの本当に少しだけの光を頼りにしながら、俺達は黙々と降りつづけた。降りた後はどうするかとか、そんなことは考えちゃいない。だけど













どうか、外の世界は
変わっていませんように。












暗闇の先に
待ち受けるのは、更なる闇か救いの光か



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