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手にしたモノは





「感情って、なんだよ」

「そのままさ、感情だよかーんーじょーうー」



何故コイツは、ここまで気楽にへらへらと笑っていられる?確かに、神崎姉妹の瞳の色が盗られてしまったという、現実的には絶対にありえないことが起こってしまった今、感情を盗られたということもありえるかもしれない。しかし何故、そんなことをされてコイツはこんなにも、平然としていられるのか。それが俺には理解ができない。



「・・・そんなにキレんなよなー。仕方ねぇだろー不安とか焦りとか恐怖とか混乱とか虚無とか嫌悪とか憎悪とか・・・負の感情ってやつ?が全部無いんだからよー」



ニコニコと効果音が付きそうなくらいな満面の笑み。この表情からは、この状況に対する不安や焦りなど、全く見えない。むしろ楽しんでいるようでさえある。俺は何故か胸が苦しくなって、気づかれないようにそっと、手で胸を押さえた。凰利のこの笑顔は、俺の何かを不安にさせる。一体何なのかはよく分からない。

















だから、気にしないようにしてしまった。
















「これから」
「どうしますか」



何の音も無い教室の中に、神崎姉妹の凛とした、綺麗な声が響いた。



「そうだな・・・とりあえず、ここには何も無いことが分かった。そうなるとここにはもう用はない。必要最低限のモノを持って外へ出よう」



そう言って俺は、もう何も残っていないであろう自分の部屋へ戻った。凰利や伽音と霞音も、自室へ歩いて行った。

もう殆ど形を残していないドアを開き、俺は部屋へ入った。タンスの引き出しを開けてみるが何もない。机の中にも何もない。ボロボロになったベッドの上の、ただの布きれと化した布団をめくるが、そこにも何もない。



「ここまで徹底して無くなっているのには、何か理由があるのか・・・?」



その呟きに答える者は誰もいない。虚しく響いて、自分に返ってくるだけだった。小さくため息をついて、凰利と神崎姉妹と合流すべく、部屋を後にしようとしたその時。





カツンッ




何かが落ちる音がした。驚いて勢い良く振り返るが、人がいたわけではないようだ。自分以外誰もいないことを確認した後で、今度は安心の意味でのため息をついた。そうして視線を下にずらしたところで、俺の視界の端に、先ほどまではなかった何かが映った。



「これは・・・鍵?」



手にとって落ちていたものをよく見ると、それは古びた鍵だった。小さいながらに装飾の綺麗なもので、二対の翼が、一枚一枚細かく彫られている。先端は複雑な形をしていて、そこらにある鍵穴には通すことすらできない、特別なモノだと分かる。



「だけど、何故いきなり・・・?」



弄ぶようにして、俺は鍵を天井に付かないぐらいまで投げ、心なしかゆっくり落ちてくる鍵に手を伸ばし、強くつかんだ。変な角度でつかんでしまったのか、掌が痛い。地味に熱さを感じる鈍い痛みに顔をしかめ、そのままその手を、制服のポケットに突っこんだ。








手にしたモノは
敵を倒す刃となるか、自身を守る盾となるか



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