失くしたモノ
「隣のクラスで」
「これ見つけた」
そう言って伽音がポケットから取出したのは、ボイスレコーダー。少し汚れてはいるが、まだ使えそうだ。だがおかしい。このクラスしか俺達は調べていないが、生徒の私物はすべて燃えてしまっていた。わざとそうしたかのように、完璧に。ボイスレコーダーのように、明らかに手掛かりとして機能するような物が、何故残っているのだろうか。とにかく、何かが録音されているならば早急に聞きたい。伽音から引ったくるようにしてボイスレコーダーを取ると、再生のボタンを押そうと探す。だが、ボタンは何処にも無かった。
「それは僕達の」
「悪戯仲間が作った」
「特別製なんだ」
「だから」
「専用の機器がないと」
「再生出来ません・・・」
見つけたと思った希望が打ち砕かれた。これでは、ボイスレコーダーの意味が無い。その専用機器とやらは燃えてしまったらしく、今となってはこの中身を聞く術が無い。
「どうにかなんねぇかなあ?」
「・・・無理」
「です」
重い空気の中、緊張感のない凰利の声が響いた。何故だか一気に力が抜けてしまった。しかし、本当に何故こいつは笑っていられるのだろう。凰利はここまで緊張感の無い奴ではなかったと思う。そう、あの惨劇の後から何かがおかしい。おかしいと言えば、双子の様子もおかしい。二人が、交互に話すことなど滅多にない。それが今はずっと交互に話している。そして、金色の瞳があった筈の場所は、眼帯によって塞がれている。
「お前ら、その眼帯はどうしたんだ?」
双子は目を合わせて瞬きをした後、伽音は右目、霞音は左目の眼帯に手を掛けて外した。目は閉じられたままで、様子がわからない。くるっと双子は俺の方を向いた。
「盗ら」
「れた」
その台詞と同時に、二人は目を開いた。俺は、驚きを隠せなかった。眼帯で隠されていた場所にあったのは、
光の映らない、虚ろな黒い瞳。
綺麗な金色をしていた瞳が、消えて無くなっていた。また、ありえないことが起きた。双子は『盗られた』と言ったが、瞳の色などどうやって盗る?誰が盗れると言うのだ。そこで俺の頭に浮かんだのは、気絶する前の恐怖の記憶。蒼い、精霊。
「お前ら、精霊みたいなのを見たか?」
俺の言葉に伽音と霞音、そして凰利も驚いていた。まさか、凰利も同じモノを?だとすれば、あれは夢でもなんでもないのか。四人が同じモノを見るのはおかしい。
「みんなも見たんだなー。てか、俺も盗られちゃったんだよ」
何が楽しいのか、ニコニコと笑ったまま話す。何かが抜け落ちている、そんな気がしてならない。盗られたというが、もしかしたら俺も何かを盗られたのだろうか。
「凰利は、何を盗られたんだ?」
えー?と不自然な笑顔のまま首を傾げ、凰利は扉の前まで歩き、それから俺達の方へ振り向く。よく見ると、あの笑顔は楽しいという単純な感情ではなく、狂喜に満ちた笑顔だった。
「感情を、盗られた」
失くしたモノ
そこから、亀裂が生じる
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