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空白の消失理由




「っああ!!」

「うをうビビった!」



悪い夢を見ていたのか、あまりの苦しさに短く叫んで飛び起きた。いつからそこにいたのか、寝ていた俺の真横には凰利がいた。突然のことに驚いたらしく、凰利は尻餅をついていた。心臓の鼓動が早く、息も荒い。どうにかして落ち着けようと深呼吸をすると、鼻についた焦げ臭さ。よく辺りを見回すと、所々焼け崩れ、部屋の中がめちゃくちゃになっている。その状況が、あの惨劇が現実のモノなのだと教えた。思い出して吐き気がする。



「お前、無事だったんだな」

「俺をなめんなよー?」



元気よさそうな親友に安堵したものの、この惨状に自分は恐怖を覚えていた。



「夢じゃ、ないんだよな・・・?」

「残念ながら、違うみたいだぜー」



こんなにも最悪の状況なのに、何故か凰利は笑っていた。理解が出来ない。なんで笑っていられるんだ。勝手にそのことに苛立った。ただの八つ当たりだということは、自分でもよく分かっている。俺は立ち上がって教室の方へと向かった。だが、ドアの手前に来たところで、あの人間で無くなったモノを思い出し、動けなくなった。もしかしたら、教室に死体があるのかもしれない。



「なーにやってんだ凌?」



いつの間にか真横に来ていた凰利が、教室へ繋がるドアを開けた。咄嗟に目をつぶり、それから恐る恐る目を開けるが、そこには何も無かった。逆に、これはおかしいのではないのだろうか。



「なあ凰利、今何時だ?」

「PM10:12だけど」



それを聞いて、教室にある壊れて止まっている時計を見た。時計は、2:20を指している。つまりは14時。今、22時ということは、あれから8時間経ったということになる。たったそれだけの間に、死体が何処へ消えたのか。誰かがわざわざ外へ運び出したのだろうか。だが、一体何の為に。そもそもあの火災は、誰の手によって行われたものなのだろうか。考えれば考える程分からなくなる。一度頭を落ち着けようと、もう一度深呼吸。



「凰利、部屋を調べよう」

「そうだな」



そういって、手分けして教室内を調べ始めた。まず教室を見回して気づいたこと。机や椅子が、明らかに減っている。いくら規模の大きな火災だったからといって、完全に燃えることは無いと思うのだが。とりあえず、机の中に何か無いかと探してみるが、ほとんどの机がひっくり返っている為、中身が辺りに散乱している。その散乱しているものの中に何か無いかと漁るが、特に何も無い。ほとんどが燃え尽きていて、元の形をしていない。



「駄目だーこっちには何もない!」

「後は、ロッカーぐらいしか調べるところはないよな・・・」



だが、ロッカーも開いていて、中身が散乱している。当然のように燃えているわけで、調べても何も出てこなかった。そこで次に私室の方を調べようと、教室から出た。まずは自分達の部屋、だが私物はほとんど燃えていて何も残っていない。凰利が燃えた私物を見て、残念そうに深くため息をついていた。他の部屋も同じようなもので、何一つとして、手掛かりになるようなものは無かった。おかしいのは奥の部屋。俺が割った筈の窓は綺麗に元通りになっていた。ありえない、ありえる筈がない。



「あー!!」



一人で考えに耽っていた時、いきなり凰利が声を上げた。驚いて振り向くと、そこには



「「やあお二人さん、無事?」」



神崎姉妹が立っていた。正直、死んでしまったのではないかと思っていた。だが二人は生きていた。それが凄く嬉しかった。二人に駆け寄り、無事でよかったと言うと、二人はにこりと笑った。そんな、二人の顔には眼帯がついていた。



「それ、どうしたんだ?」

「後で」
「説明」
「する」



いつもは同時に話す二人が、いきなり交互に話し出した。顔つきが真剣だったため、周りの空気が少し重くなった。



「とりあえず」
「報告するよ」



二人の話しによると、行ける階の部屋はほとんど調べてきたが、生徒の私物やなんらかの手掛かりになるものは、全く無かったと言う。

よく考えると、それはとても恐ろしいことだった。ある筈の死体が無い、そして私物すらもない。まるで、ここに存在していたことを真っ向から否定するかのような、そんな恐ろしい思惑が感じられる。俺達も、同じように、存在していたことを、否定されるのだろうか。







空白の消失理由

確かに皆、ここで笑いあっていたのに



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