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平和だった筈の日常




悪夢の数時間前、AM8:40
俺、柚希 凌の通う全寮制私立高校1年D組の朝礼開始時刻。窓側前から5番目の日当たりもよく、先生からも見えにくい調度よい席に俺は座っていた。教卓に立つ見慣れた顔の先生を横目で一瞥してから、どこにも目を合わせる事なくぼうっとしていた。出席確認で先生の口から俺の名前が出た時、俺は返事をすることなく、がらりとなんの前触れもなく開いた教室の入り口を見た。



「「おはよう」」



顔の同じ女が二人。この学校内で色んな意味でかなり有名な双子の姉妹・・・神崎姉妹は遅れて教室へ入ってきた。左に立っているのは姉の伽音。眠そうな顔をして、制服もまともに着ていない。口許を抑えずに欠伸をすると、隣にいる妹の霞音が下品だと伽音の頭を叩いていた。霞音は制服をしっかり着ていて、眠そうな顔はしていない。もっとも、遅れてきた時点であまり意味がないのだが。



「また遅刻か神崎!それといい加減髪を染め直せ!!」



先生は神崎姉妹のメッシュの入った髪を指差した。しかし、俺達としてはメッシュが入っている方が、二人を見分けやすいのだが。伽音の方が赤メッシュで、霞音が青メッシュ。それ以外にも瞳の色で見分けられるが、髪色が違う方が一目瞭然だ。



「「嫌」」



二人は口を揃えてきっぱりと断り、何か言いたげな先生の前を素通りして自分の席へと向かった。俺の前に霞音、俺の後ろに伽音というものすごく困る位置。この双子が幼なじみの親友でなければ、すぐにでも席を変えてもらいたくなる。



「「おはよう凌」」

「ああ・・・おはよう」



前後から同じ声で、同じことを言われると変に響いて聞こえる。慣れてはいるが、なんとも言えない不思議な感覚は今だに消えずに残る。にやりと笑っているあたり、狙ってやっているのがよく分かる。二人が座るのを確認してから、先生は出席確認を再開した。



瞬間



「おっはざーす!!」



勢いよく開いたドアの向こうから、馬鹿みたいに元気な声が響いた。声の主は俺の親友、燈玲 凰利。へらへらと笑いながら先生の前まで歩き、右手を挙げて遅刻すいませんーと言うと、先生に何か言われる前に席へ素早く座った。凰利は俺の隣の席で、仲がいい奴らで集まった形になっている。



「はよー凌と双子!」

「「一まとめにすんな」」



二人が苛ついた顔で凰利にそう言うと、凰利は悪びれた様子もなく可笑しそうに笑っていた。双子が立ち上がって、手に持ったノートを丸めて凰利の頭を叩こうとする。凰利も立ち上がって俺の後ろへ隠れたが、あまり意味がなく、双子に何回も叩かれていた。先生が注意するものの、周りの皆も俺も、一緒になって笑って見ているうちに、朝礼の時間は終わってしまった。先生は、ため息をつきながら教室から出ていった。次の授業は移動教室らしく、皆が楽しく話しながら準備をしている。準備の終わった双子は、先に行くと言って教室を出て行っていた。



「凌、どうするよ」

「ああ、サボるわ」



俺はそう言って、教室の後ろにあるドアへと向かった。この学校はおかしなことに、教室の隣に生徒達の私室がある。それでかなり部屋を使ってしまうので、一つの階に二クラスしかない。



「燈玲君は残念なことに、かなり成績がやばいんで授業行くわー」

「おー、頑張れよ」



凰利に背を向けたまま軽く手を振って、俺は自分の部屋へ戻った。それからはいつものように寝て、時間を潰して午後の部活に出るという、いつも通りの生活を送る筈だった。





この時は、

この平和が崩れるなんて

全く分からなかったんだ。







平和だった筈の日常

そして、平和は崩れ、悪夢へ向かう



あきゅろす。
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