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▼離れ、変化した者の内





迫りくる駒を、殴り切り裂き、抉って潰す。

ああ、ウザったい。


どんなに捩伏せても、コイツらはどこからでも沸いて来る。ただ倒し続けているだけでは、体力が消耗するだけだ。



邪魔、気持ち悪い、目障り。



俺は行かなくちゃならないのに。やらなくちゃいけないことがあるのに。どうしてコイツらは、俺の邪魔をするんだ。早くやらなければならないんだ。アイツの――凌の為に!!



ああもう、ウザいな、消えて、くれないかな。



そう思いながら、俺はその場に立ち止まった。それから、頭上へと思い切り手を振り上げ、ジャマダハルごと地面に拳を突き刺した。
























【凌】

俺の世界は、凌が全て・・・だった。
過去形だ。


いつの間にか消えてしまっていた記憶。忘れていたせいで、凌に近づくあの女への憎しみを、怒りを、憤りを、嫉妬心を、憎悪を、苦しみを、悲しみを、羨みを、忘れていた。

それどころか、俺はその女と馴れ合っていた。毎日のように笑い、はしゃぎ、毎日のように手を取り合い生活していた。なんの疑いもなく、それが当たり前だと思って過ごしてきたのだ。今、思い出すだけでも悍ましい。ああ、気持ちが悪い吐き気がする。


本当は凌のすぐ側にいたい。本当は側にいるべきなんだ!いつものように、馬鹿騒ぎして、笑って泣いて、永遠のような時間を過ごしたい。でも、今のままじゃ駄目なんだ。



凌も、俺も。



だから俺は急いでいるのに。
早く凌を迎えに行く為に【あの場所】へ行って、俺は俺を取り戻さないといけないんだ。凌とまた顔を合わせるためには、そうしないといけないんだ。







凌、大好きだよ、凌。
変な意味じゃなくて、友愛とか、親愛、兄弟愛とか、そんな感じの意味でさ。







お前が一番大好きなんだ。小学生の頃からずっと一緒だった。一緒に並んで歩いてた。泣いて笑って、くだらないことで喧嘩して、最終的に二人で泣いたりしたこともしょっちゅうだった。学校だって、遊びに行く時だって二人でいた。クラブや部活も一緒になって、遅くまで練習を頑張ってた。そう、いつも一緒だった。昨日までもそうだった。


だけど、毎日二人だというわけじゃなかった。


凌の幼なじみだというあの女。あの女が、所々で俺の幸せな思い出を侵して壊して、砕いている。二人で遊ぶ筈の約束の場所へ、あの女がやってきたんだ。人懐こそうな、満面の笑みを浮かべて。





『×××だったくせに』





やめろ、凌にくっつくな。凌は困ってる。お前みたいな奴がいて迷惑している。凌はお前なんかといるより、俺といる方が楽しいんだ。お前みたいな奴は、凌を不幸にすることしか出来ないんだ!!



嫉妬の固まり。
当時はそう思ってたんだ。
でもあの時、




初メテ人ヲ殺シタアノ時




俺はその感情を記憶を、自らそれを放棄してしまったんだ。凌が平和に暮らせるように、俺も忘れる必要があったんだ。凌の為ならなんでもする。あの女と馴れ合うことだって。だから記憶を放棄した。今はもう思い出したから、馴れ合いなんて冗談じゃないけど。


そうだ、俺は人ヲ殺シタ。
もちろん、凌を守るためだ。凌を不幸に陥れようとする奴なんて、みんな死ねばいいんだ。そう思ったら、あの女は殺しておくべきだったな。凌が悲しむみたいだから、やらなかったんだっけ。


でも・・・やっぱり生きてる価値なんかないわ、あの女。凌の些細な変化に気づかないなんて。俺だけが気づいてた。だから、何もしない側にいるだけのあの女の代わりに、俺が殺してやったんだ。凌は幸せでなくちゃならないのに、どうしてアイツは凌を不幸に陥れてたんだ?意味わかんねぇ。



アイツが死んで、凌は涙を流しながら、吐いてた。



なんで?コイツは凌を不幸にしてきたんだぞ?そんな奴の為に、凌がなくことはない!!流す涙がもったいない。こんな奴に抱く感情は必要ない。そう、だから忘れることにしたんだ。


だって、怯えてたんだ。泣き止まなかったんだよ?忘れたら、また笑ってくれるかもしれないじゃないか。その可能性にかけて、忘れるしかないじゃないか・・・。





不幸の根源、一つ消えた。
もうニつ・・・いや、三つ消さなきゃ。
アイツが目覚めるより先に、凌を連れ出さなきゃ。目覚めた時どうなるかなんて、目に見えてる。だから本当は置いて行きたくなかったけど、あの場で説明したって、忘れてるんだ。信じてもらえるわけがない。まあ、辰巳さんも乃十さんもいるし、大丈夫だとは思うけど・・・な。


二人には後で感謝しなきゃ。凌を守ってもらってるし、色々教えてくれたし、武器も貰ったし。たった一日程度なのに、すごいお世話になってたんだなあ。そういう礼儀は、欠いたら駄目だよな。





そうと決まったら、ここで休んでる場合じゃないな。
行かなくちゃ、進まなくちゃ。



凌、凌、凌、凌凌凌凌凌凌凌凌。待っててくれよ、迎えに行くから。それまでどうか死なないでくれ。


何も思い出さなくていい。多分凌は泣いちゃうだろうからな。だから忘れたままでいてくれ。苦しまなくていい、悲しまなくていい、俺が守ってあげるから。


そして二人で、こんなゲームクリアしちゃおう。俺達二人が協力すれば、なんだってできるさ。


そして一番の不幸の根源を、二人で潰して消してやろう。こんなくだらないことで、凌の記憶を掘り起こした最悪の奴を。




















―――神を、殺してやろう。








離れ、変化した者の内
既に狂ってるのに、気づかない



あきゅろす。
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