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遊ぶことに理由は無い




ったく嫌になるよなぁ。今の神ってのはやることもなく、相当暇らしい。ただ見ているだけだったらしいからな、そりゃ暇だろうよ。確かに暇ってものは、かなり辛いからな。

それで、神は考えたんだよ。掃いて捨てるほどいる俺ら人間を使って、暇を潰すための余興を行おうと。それで一番楽しいのは何かって言ったら、同種族同士の一方的な殺戮だってよ。でも一方的すぎるよな?一回の【遊戯】での参加者は最高でも七、八人。それに対する敵が、何千何万何億だ・・・地球規模で考えればな。実際は海外に行くわけもないから、それよりは少ないだろうな・・・おっと、話しが逸れたね。

何がどういう風に始まったか、その経緯は知らない。俺は一番始初めの【遊戯】は知らないからな。一番初めは大変だったろうな。こんな組織はなかったんだからなー。一番初めのやつらは、この組織には一人もいないから、当時の状態を知るやつはいない。一人もいない、てことは、皆死んじまったんだろうな。


・・・え?なんでそんなに詳しいかって?


さっきも言ったろ?俺達もお前らと同じ逃亡者だ・・・ってな。俺もな、お前達みたいに、無理矢理参加料を取られて、強制的に参加させられたんだ。ある日突然何の前触れも無くな。酷い話しだよな。俺達の意志なんか関係ないんだぜ!?今まで普通に生きてきたのに、180°どころか、裏表くらいに人生が変わっちまったよ。

文句言ったって、お前達は私達が作ったのだから、何をしようと私達の勝手だとよ!俺達は玩具か、っての。目の前で友達も死んだし、同僚や上司、部下なんかもみーんな消えちまった・・・あ、上司はラッキーだったかもな?うざかったし・・・
















「・・・ちょっと待ってください」

「なんだよー。今いい感じに語ってたのに」

「どうしても気になることが二つほど」

「仕方ないなー質問を許可するっ」




へへーん、とでも言うように俺達を指差しながら、乃十さんは子供っぽく笑った。その後ろで辰巳さんが、ため息をついているのが見える。相当乃十さんに苦労させられてるんだろうな、と思うと、なんだか笑いすら出てこない。しかし、乃十さんの話し方は緊張感に欠ける。真面目な雰囲気というものは何処へ行ったやら。




「参加料って、なんですか?」

「おー、それは何となく分かるんじゃないか?お前達にとって一番大切なモノが、このゲームに参加する際に徴収される。参加を拒否することは、先程も言ったように強制させられるから無理だ。お前たち、何か無くなったモノがあるんじゃないか?」

「・・・右目が」
「・・・左目が」

「俺は負の感情?がなくなりましたよー」




三人がそれぞれ、思い当たる節を述べているが、俺には何もない。俺は神崎姉妹のように瞳の色を盗られたわけじゃないし、凰利のように感情を盗られたわけでもない・・・俺の参加料ってなんだ?俺にとって、一番大事なモノってなんだ・・・?




「おっかしいな、凌は何にも盗られてないの?一番大切なモノ自体じゃなくて、それに繋がるものっていう場合もあるらしいんだが、なんもないか?」

「・・・思い当たらないです」

「もしかしたら、それに気づかないだけかもしれんな」




辰巳さんが呟くようにそう言う。乃十さんはそれに、なるほど!といって強く頷いている。確かに、無意識のうちに大切だと思うものもあるようだし、ありえないことではないかもしれない。俺は一体何を盗られたか・・・考えても思い付かないのだから、暫くは分からないだろう。乃十さんはそんな俺の様子を見て、これ以上は話さないと判断し、話しを切り替えた。




「さーて、次の質問は何かな?」

「さっきの話しを聞いてると、どうも乃十さんは、実際に神と会ったことがあるかのように聞こえるんですが・・・」

「あぁ、そんなことか。うん、普通に会ったことあるぜ?それに俺だけじゃあない。辰巳サンも会ったことがあるはずさ」

「えっ・・・!?」




とっさに辰巳さんの方を見ると、辰巳さんは思い出したくもない、というように忌ま忌ましそうに顔を歪めた。反応を見るかぎり、神とは相当頭にくる存在らしい。

乃十さんは呑気に辰巳さんの表情を見て、クスクスと笑っている。さすがにそれには腹を立てたらしく、辰巳さんは乃十さんを強く睨んだ。俺が睨まれたら多分、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっていたであろう程の、恐ろしい目をしていた。

しかし、そんな視線を受けながらなおも笑っていられる乃十さんは、鈍いのか胆が座っているのか、ただたんに人をからかうのが好きなだけか・・・おそらくは後者だろう。




「まあ神の姿は記憶から消されてるんだがな。だから容姿とかについては、悪いが何も教えることは出来ないよ。どちらにしろ生きてる時間が長すぎて、記憶なんかどんどん薄れてきちまって無いようなものさ」

「長すぎてって、乃十さんは一体何歳なんですか?」

「んー外れる前までは、確か二十五くらいだったかな?でも多分、もう百年近くは生きてるはずだと思うぜ」

「外れるって・・・?」




疑問が尽きない。情報量が多すぎる、というよりは、今までの常識というものをすべて覆されたが為に、理解が追いつかないだけかもしれない。とにかく、聞けるうちにたくさんのことを聞いておこう。情報の整理は後でやればいい。今は情報が必要だ。




「あーこれが一番説明難しいんだよな・・・うーん、俺らはゲームに参加した時点で、空間としての世界からの逃亡者、って呼ばれる者になるんだ。


神の管理下・・・生と死という絶対の理から外され、神に操られた人間・・・面倒だからこれからは駒っていうぞ。駒に殺されるか、神に殺されるまで、俺らは歳をとらずに延々と生きながらえる。


【遊戯】が終わると、駒たちはいつもどおりの生活に戻り歳をとって死ねるが、俺達は人々の記憶から消され、そこで生きていかなきゃいけないんだ・・・それがどれ程苦しいか、お前らには分からないだろうけどな」


「言い方は物凄く悪いですけど、自分で命を絶とう、とかは思ったりしなかったんですか?」




そう言い終わるやいなや、その場にいた人達の表情が固まった。一気に部屋の室温が下がったような錯覚がして、少し鳥肌が立つ。皆、何かを恐れているように見える。死んでしまえば、生きつづけるという苦しみから逃れられるんじゃないか?・・・どうやら、そんな甘い考えは通用しないらしい。




「また突拍子もない話しだなんて思うだろうが、死んだ方が苦しむことになる。何故かって?逃亡者の俺達が死んで行くところは、天国や地獄なんてものじゃない。神の元へ送られ、飼い殺される。人間としていられなくなる。

神は死んでからも、俺達を苦しめて追い詰めて痛め付けて楽しんでいる。一度だけ、神が俺達へのみせしめとして、仲間の様子を見せたんだ。俺と辰巳サンは、目の前でそれを見せられたよ」




乃十さんは笑顔だが、その手は力強く握られている。よく見ると、その笑顔が微妙に歪んでいる・・・もしかしたら、乃十さんの参加料というのは、凰利のように感情だったのかもしれない。ただ凰利違い、笑うことしか出来ない自分に憤りを感じているようだった。

みせしめというぐらいだから、その人は相当酷い目に合わされていたんだろう。生きても苦しみ死んでも苦しみ・・・ある日突然、無理矢理逃亡者されてしまった。自分の意志ではないのに、延々と苦しみを与えられる。俺達には、安らぎや癒しというものはもうないのか。理不尽とか言うレベルじゃない、これはもう拷問だ。




「だから俺達は、生きることにした。まあ、仲間と一緒だって考えたら、それはそれで楽しいだろ?んで、俺達逃亡者はこういう組織を作って、新たな逃亡者を助けていこうって決めたんだ」




そこからはもう、乃十さんは普通の笑顔に戻った。ふざけてはいるが、同じ境遇の人を、どうにかして助けたいという意志が強いんだろう。そういうのが分かってるからこそ、辰巳さんは頭を抱えながらも、乃十さんを仲間って認めてるんだろうな、とか、勝手な想像をしたけど、あながち間違っていはないだろう。

なんとなく、なんとなくだけど、互いに信頼し合っているのが分かる気がする。今、乃十さんの横にいる辰巳さんの表情は、先程までとは全く違い、とても柔らかいものだった。なんだか兄弟みたいで羨ましいな、なんて。そんなのこの状況下では、とてもくだらないことでしかないのに、よく分からないけど、羨ましかった。





・・・・俺に家族なんて、いなかったから















遊ぶことに理由は無い
ただ楽しみたいだけ。そうだろ?



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