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非現実は存在しない





辰巳さんの信じられない発言に、俺達は絶句した。何をどう言えばいいのか、どう反応したらいいのか分からない。神?遊戯?・・・そんなことをどう信じろと言うんだ。



「神など信じられない、というような顔をしているな」



何かの冗談かとさえ思う。しかし、目の前の人々は一切笑ってなどいない。確かに、今日一日の出来事を振り返ると、可能性としては否定することは出来ないが、神というのはどうにも信じられない。



「神なんて・・・そんな非現実でしょ辰巳さん」



納得いかなそうにそう言う凰利。その言葉は俺だけでなく、神崎姉妹の考えを代弁したことだろう。二人も納得のいかない顔をしている。それを聞いた辰巳さんは、近くにいた人に何かをするように言うと、大きなスクリーンの前へ移動した。それを確認した後、辰巳さんに何かを命じられた人は、装置のボタンを押した。



「「これ・・・」」



神崎姉妹が驚きの声をあげる。もちろん俺も驚いた。何故ならスクリーンに映し出されたのは、あの時に見た、青い精霊のようなモノ。



「これは、【Spirit】という」

「スピリット?」

「そのままの、精霊、という意味だ・・・こいつは【遊戯】の選定者として、神に作り出された存在だ。これを見てもまだ、非現実だと言えるか?」



俺達は言葉を詰まらせた。確かに、俺はスピリットというモノを確実に目撃している。これでは、完全に神の存在を否定することは出来ない。

それにしても、また出てきた【遊戯】という言葉。殺戮ゲームって、いったいなんだ?なんで俺達が選ばれたんだ?もうわけが分からない。しかし、ここで混乱してしまえば本当に何も考えることが出来なくなる。ここは、辰巳さんの説明を待とう。



「順を追って説明をする。質問はすべてを話した後で受け付ける・・・それでいいな?」



俺達は静かに頷き、真剣な表情で辰巳さんを見つめた。室内にいる人達すべてが、苦虫をかみつぶしたような顔をして俯きがちだ。その顔を見ているだけで分かる。これはゲームなどという、軽いものではないのだと。【遊戯】などという、楽しいものなどではないのだと。



「いつ始まったかは誰にも分からない。暇を持て余した神がほんの余興のつもりで始めた、人と人とを争わせるゲーム・・・【遊戯】とは、スピリットに選ばれた者達が、それ以外の人間をひたすら殺しつづけていくという内容の、終わりが見えないものだ。神が飽きるか、選ばれた者達が神にたどり着くか、その者達が死ぬか・・・そのどちらかが成立しないかぎり、延々と続けられる」



理解が追いつかない。というより、頭がそれを否定し続けている。暇だから、というくだらない理由で、神というやつは人同士を争わせるのか。何故俺達が、人を殺さなければいけないんだ。自ら進んで人などを殺すものか、殺すわけがない。そんな考えが容易に読み取れたのか、辰巳さんの表情が厳しいものに変わった。



「殺さない、というのは無理だ」

「な、なんでですか・・・!」



その表情がどこか悲しげで、やっと出た言葉が、情けない声になってしまった。何故?何故、殺さずにいるのが無理なんだ?



「お前達と、私達以外のすべての人間は、私達を殺しに来るからだ」

「なっ・・・」

「それってどういう事なんだよ辰巳さん!」



俺が言う前に、凰利がそう叫んだ。その横では、神崎姉妹が互いに手を握ったまま、小さく震えている。俺の身体も、無意識に震えていた。

怖い。

久々に感じた恐怖に、俺は戸惑いを隠せない。止まらない震えを押さえるように、俺は拳を強く握った。



「・・・言っただろう、これはゲームだと。ゲームには敵がいなければ成立しない」

「そこら辺に出てくるモンスターと同じ扱い、ってことっすよ」



辰巳さんの言葉を繋ぐ形で、すぐ近くにいた若い男が口を開いた。辛辣な顔をしている皆とは違い、そいつだけ楽しそうに笑っていた。まるで、先程までの凰利のように。



「葛城・・・」

「んな怒んないでくださいよ辰巳サン。あんたは、この話しするの好きじゃないっしょ?俺が引き継いで話しますよ、と・・・」



そう言って、葛城と呼ばれた男は、椅子に座ったまま回転してこちらを向き、にこりと笑って一礼した。今までの深刻な雰囲気が一気に抜けてしまい、なんだかよけいに混乱しそうだ。



「どーも。俺は【葛城 乃十(カツラギ ノト)】っていう者っす。んじゃあ・・・俺が続きを話すわ」



一気に表情が変わった。真面目な表情へ変わったんじゃない、狂気に満ちた笑いへと変わったのだ。自然と俺らの中に、緊張が走る。



「さっき言いたかったのは、いきなりラスボスヘ進めるわけがないってこと。ああ、神ってのを例えてラスボスな?どんなゲームにも必ず、ザコとか小ボス、中ボス・・・そういうのがいるだろ?そのザコにあたるのが、俺ら以外の人間、ってわけ。お前らも見ただろ?それとも覚えてないか?沢山の虚ろな目をした人間に、襲われただろ?どうもこの人間ってのが、神に操られてるらしいんだわ。君ら俺らと、主人公格である君らをを倒すようにプログラムされてる・・・ってのが正しいっすかねぇ」



ねえ辰巳サン?と、乃十さんが辰巳さんを振り返ると、辰巳さんは一瞥しただけですぐに俺達の方に向いた。やれやれ、といったように肩を竦めて、乃十さんはこちらに向き直った。

確かに、俺達は見知らぬ人達に襲われた・・・と思う。しかし、気を失う寸前だった為に、記憶は曖昧だ。



「だから、殺すしかないんだよ。君らだって、殺されんのは嫌だろ?」

「それは、そうですけど・・・」



そこまで言って、俺は言葉を止めた。


おかしい。この人達は詳しすぎる。何故こんなにも、このゲームついて詳しいんだ?

少し整理してみよう。
乃十さんはゲームに例えて説明している。ここは俺も、ゲームに沿って考えてみる。

重要なのは役割。俺達が主人公格、俺達以外の人間がモンスター、ラスボスが神。小ボスや中ボスは分からないが・・・ならば、辰巳さんや乃十さん達は、一体どんな役割なのだろうか?主人公に助言を与える者達か、主人公を付け狙う組織か、もしくは目的は同じだが、考え方が違う故に対立する存在か・・・考えすぎだろうか。少しゲームのやりすぎだったかもしれない、などと場違いのことを思ってしまった。



「考えてるな?俺達が一体どんな存在なのかを。凌、だっけ?お前ってなんか、すげぇ分かりやすいな」



にやにやと楽しそうに笑う乃十さんに苛立ちを覚えたが、それは図星を突かれたからだ。俺はそんなに分かりやすいのだろうか。



「安心しろよ。俺らは長く生きてるから、人の表情から考えを読み取るのが得意になっただけだ。さて、お前の疑問への答えだけど・・・そうだな、俺らはお前らと同じだったんだ」

「それって、どういう・・・」



ことですか、そう言い終わる前に、乃十さんは手を大きく叩き、勢いよく手を広げた。演技がかったその動きにうんざりしたように、辰巳さんは顔を押さえた。乃十さんはそんな事も気にせず、俺達に皮肉な笑みを向けた。























「俺達も、お前らと同じ、逃亡者だ」














非現実は存在しない
何が現実だなんて、誰が決めた?




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