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その夢は語る




「アハハハハハッ」



月明かりのない、真っ暗な公園。俺はそこに横たわって、目の前で何かを踏み付けて、楽しそうに笑っている少年を見ている。

これは・・・夢、か?

だとしたら、あの時の夢だ。小学校三年生の四月・・・いや、五月くらいか。小学校に入って初めての友達の、アイツと夜まで遊んだ時の夢だ。なんで今まで忘れていたんだろう。こんなにも鮮明で、恐ろしいあの出来事を。



「アッハハハハハ!しのぐ、どうしたの?こっちこいよたのしいよ?」



そう言われても動こうとしない俺に、アイツはつまらなそうな顔をして、また足元の何かを踏み付けていた。



ぐちゃ

べちゃ

ばきっ

ぐちゃ

ぐちゃっ



何を踏み付けているのか、そこまでは思い出せない。だけど夢の中の小さな俺は、その光景があまりにも気持ち悪くて、腹を押さえて胃の中のモノを吐き出している。自分で吐いたモノすらも気持ち悪くて、見ていられなくて、震える身体を必死で動かす。そんな俺を見て、アイツは心配そうな顔をして近づいてきた。一瞬恐怖で身体が跳ねる。それに少し驚いたアイツだったが、すぐに柔らかい笑みに変わった。



「おれがこわいんだね。でもだいじょうぶだ!きっとこんなくだらないこと、すぐにわすれられるから。おれもあしたにはわすれてるよ。だからまた、いつもどおりわらってあそぼうよ。な?」



そっと俺の頭を撫で、さあ帰ろう、と手を伸ばしてきた。小さな俺は虚ろな瞳のままアイツの手を取り、ふらふらしながら立ち上がった。そしてそのまま、手を引かれて帰路へとついた。


その後のことはもう、完璧に記憶から抜け落ちている。いつのまにか、俺は真っ白な天井の病院にいて、アイツも同じ病院の中にいた。いろんな人にどうしたの、と言われたが、その時の俺は何も覚えていなかった。アイツの言う通り、公園での出来事はすべて忘れていた。だから今の今まで、アイツと仲良くしていられたのだろう。







思い出してしまった今、俺はアイツと普通に接することが出来るのだろうか。

























「ぅ・・・」



薄く目を開けると、蛍光灯の光が目に入り、眩しくてすぐに閉じた。しかし、すぐ横に人の気配を感じ、手で光を遮りながら再度目を開いた。



「あ、凌が起きた!」

「凰、利・・・か」



横にいたのは、満面の笑みで笑う凰利だった。俺が起きたのを確認すると、走って部屋から出ていってしまった。何が起きたかよく分からない。俺はあの後、気絶してしまったらしいというのは分かる。しかし、ここは一体何処なのだろうか。あの男が一体何物だったかも気になる・・・と、ここで一つの考えが浮かんだ。

あの男は、我らとともに来てもらう、などと言っていた。もしかしたら俺達は、そいつにここへ、連れて来られたのではないだろうか。しかしこの待遇のよさを考えると、特に何かをされるというわけでもなさそうだ。取りあえず、今は大人しく休んでいよう。



「「凌!」」



いきなり部屋の扉が開き、神崎姉妹が駆け込んできた・・・驚いて思わずベッドから落ちそうになった。二人の後に、凰利が入ってきた。もう一人、誰かを連れて。



「・・・あんたはさっきの」



凰利が連れて来たのは、先程俺に洋剣を突き付けた男。あの時は暗くてよく分からなかったが、コイツはとんでもない目をしている。威厳とかそういうものじゃなくて、死線を乗り越えてきたような・・・などと言ったらまるで漫画みたいだが、本当にそんな感じだ。



「冷静だな・・・てっきり、何かしら食いついてくるかと思ったが・・・」

「あんたが俺らに危害を与えるつもりなら、凰利を自由にさせておくはずがない。そういうつもりなら普通、逃げたり反抗出来ないように拘束するかして、閉じ込めておくだろ?」

「ほう・・・凰利が私を呼びに来る、この数分間でそれだけのことを考えたか・・・」



男はそう言ってニヤリと笑った。

この男が、凰利を名前で呼んでいたことに多少の引っ掛かりを覚えた。しかし単純に考えるなら、俺が眠っている間に話しでもして、ある程度親しくなった、という辺りだろう。横目で部屋の中にある時計を確認すると、時計の針は九時を指している。もう日付が変わってしまっているのだ、そのくらいの時間は十分にあっただろう。考えていることが分かったのか、男がふっ、と苦笑いをした。



「私は【神藤 辰巳(シンドウ タツミ)】だ。ここの総司令官を任されている」

「柚希 凌です・・・総司令官って、一体何の・・・?」



俺がそう聞くと、男・・・辰巳さんは俺をじっと見つめ、具合は悪くなさそうだと判断したらしく、ついて来い、とだけ言って部屋から出た。俺はベッドから降り、素早く後について行った。少し遅れて神崎姉妹と凰利も歩きはじめた。








しばらく部屋の扉以外に何もない廊下を歩きつづけると、目の前にこれまでとは違う、大きな扉が現れた。大きさからすると、この扉の向こうは相当な広さだろう。辰巳さんは何の躊躇いも無く、さも当たり前のように、その扉を開いた。



「・・・ここは、一つの軍と言っていいだろう」



扉の中には、辰巳さんと似た恰好をした、沢山の人がいた。人、人、人、人・・・ぱっと見だけでも、百人以上は余裕でいるだろう。その人達が全員、それぞれ違った目で俺達を見ていた。

期待に満ちた目、歓喜の目、不安そうな目、諦めたような目。

何故そんな目で見られるのか、俺にはまだ分からない。いったいこの人達は、俺達に何を求めているのだろう。軍、と言っていたが、何のための軍なんだ?



「私達は【遊戯】を終わらせるために結成された組織だ」

「遊、戯・・・?」

「そう・・・
























愚かな神が始めた・・・殺戮ゲームだ」







その夢は語る
それは、真実へつながる一つの小さな欠片



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