短編
3
家に帰るとお風呂が沸いていた。
こうなることを予想して先に用意してくれてたんだろう、冷静なのかそうじゃないのか、たまに彼が分からなくなる。
冷えて感覚の無い肩に半兵衛の手が触れる。
「冷えきってるじゃないか、早く入りたまえ」
「半兵衛こそ冷えきってるよ、お先にどうぞ」
「また君は…分かったよ」
「え?」
分かったよって言ったから半兵衛が先に入ると思ったのに、私の手を引くとそのままお風呂場へ向かう。
まさか…と、顔が熱くなる。
嫌々と手を振り回しても離してくれない。
「大人しくしたまえ、ほら、脱ぐ」
「ちょっと、やっ…!」
濡れた身体に張り付く服を次々と無理矢理ひっぺがされ、あっという間に下着まで取り払われてしまった。
「何すんの馬鹿!」
「君に馬鹿とは言われたくないね」
慌てて身体を隠すタオルを探すが半兵衛の後ろにある、これは取れない、というか恥ずかしい。
半ば逃げ込むように浴室へと逃げ込んだ。
軽く身体に湯を掛けて浴槽に入ると同時に、半兵衛も入って来た。
開いた扉の向こうに脱ぎ捨てられた私達の服が重なって落ちているのが見える。
「ちょっと何!?せめて手ぬぐいくらい持ってきてよ」
「君がお先にどうぞって言うから急いだんじゃないか」
慌てて顔を隠す。
すると闇の中で水音がし、また慌てて目を開けると半兵衛も浴槽内へと入ってきているところだった。
「無理無理!」
「何だい?恥ずかしがっているのかい?」
決して広くは無い浴槽の中で2人の身体が密着する。
まるで私を押し倒すように半兵衛が上に覆い被さり、私の脚を割って間に入ってきた。
半兵衛は、また顔を熱くする私に淡々と述べた。
「君はあの狭い遊具の中で慶次君といたんだね、彼は身体が大きいからさぞ密着したんだろうね?」
「いや別に…」
半兵衛の目が笑ってない。
「口付けの一つでもされたかい?」
「そんな事絶対無いって!」
「こんな風に」
間髪入れずに半兵衛の舌が私の口内へ捩じ込まれる。
突然の事に驚くが、顔を湯船の上でしっかりと掴まれ逃げることが出来ない。
湯の中で私と半兵衛の身体が密着する感覚が大きくなり、まるで触手がまとわりつく様な錯覚を覚える。
跳ねる水音と口内の水音が聴覚をくすぐり、何も考えられなくなりそうになり脳がジンと痺れた。
不意に唇を離した半兵衛が、蕩けた表情であろう私を見据える。
「狭い中で密着するって厭らしいね、慶次君とはそんなに良かったかい?」
「ちょっと待ってよ、勘違いにも程が…あっ」
湯の中で半兵衛の指が私の…下に触れた。
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