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短編
2

「何しに来た?」

「言わずもがな、だろう。名無を迎えに来たんだ」


半兵衛はこの中を覗くこと無く話しかけてきて、それがかえって不気味に見える。


「ハァ…女の子泣かしといてよく言うわ!」

「ちょっと、私まだ泣いてないし!」


何勝手な事言ってくれてんの!
軽く慶次の頭を小突いたけど、まるで気にしてないかのようにニヤニヤしながら外に出てしまった。


「はーあ。ま、お迎えも来たことだし、邪魔者は退散しますよっと」

「そうしてくれると非常に有難いね」

「…」


雨音の中、1人の足音だけが遠ざかる。
遊具の線を隔て、半兵衛の脚と蹲る私を残して。


「…」

「風邪ひくよ、帰ろう」


こうは言ってくれるものの、やっぱり心の中のモヤモヤが私の動きを邪魔する。

穴から出ようとしない私に、半兵衛は溜め息を吐き、観念したように口を開いた。



「…悪かったよ、秀吉の方が大事、だなんて言って」

「…別に。それが事実なら仕方ないし」


「全く、まだ拗ねているのかい?」

「…別に。拗ねてなんてないし」


ハァ、と半兵衛がまた溜め息を吐き、かがみ込んでこちらをのぞき込んできた。

「…傘は?」

「忘れた」

銀色の髪が雨に打たれて顔に張り付いている。
水滴があとからあとから、彼の顔から滴り落ちる。

よく見ればズボンの裾も泥はねだらけだ。

私なんかより、ずっと風邪をひいてしまいそう。

心臓の奥がギュゥと縮んだ、痛い。

言えなかった言葉がポツリと自然に出た。


「ごめんね」

「大丈夫だよ。早く名無を連れ戻したかっただけだよ」


半兵衛の冷えきった手を取り、走って家へと向かった。

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