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短編
8

いつもの覇気は無く、今にも消え入りそうな声で呟く。

名無は一瞬呆気に取られたが、怖じ気付く男に微笑みを向けると

「グフッ!」

顔面に強烈なグーパンチをお見舞いした。



「何言ってるの、そんなの寂しいに決まってるわ!
でも政宗には向こうに大事な仲間がいるんでしょ?私は滅多に死ぬ事は無いけど、もしかしたら仲間達は今も政宗を待ちながら戦っているかも知れない…」

「……そうか、そうだよな」



扉を開き玄関先へと足を踏み入れる。

あの時の様にリビングへ続く扉から光が激しく漏れているが、名無は臆する事なくその扉を開ける。

天井を貫く細い稲妻が中央に溜まり、大きな光を発している、丁度そこは政宗が倒れていた場所だ。

名無は押し入れに詰め込んでいた政宗が身に付けていた武器や防具一式を取り出し、政宗に押し付ける。


「そうだよ、だから政宗は戻らなきゃ。
…でも、気を付けて。絶対、死なないでよ…」


震える声でそう言うと名無は俯き、刀を握り締め冷たい鉄の篭手に額をくっつけた。

政宗は刀を握り震える名無の手に自身の手を重ね、彼女の頭を撫でながら自嘲気味に笑った。


「…俺は情けねえ。名無、有難うな。
俺は大丈夫だ、心配すんなよ?」


引き裂かれそうな胸の痛みを堪え、名無から荷物を受け取り光へと向かって歩き出す。


「待って!これを…」


政宗は名無が放った何かを受け取ると、そこには携帯電話があった。
中のフォルダには政宗が面白がって弄って撮った写真がいくつも残されていているのだ。



「そっちじゃ充電できないから、たまに見て思い出して」


本当はこんな大事な物を渡そうなんて思わないが、ほぼ衝動的に渡した。
死地へと行く相手へ贈る物としてそれは相応しいか分からないが、どうしても忘れないで欲しかった。


「Thank you…じゃあ名無、また会おうな!」


最後に振り返り無邪気な顔を見せた政宗は光の中へと歩み消えていき見えなくなった。

それを完全に政宗の姿が光で見えなくなると、名無はその場に座り込んでしまった。

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あきゅろす。
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