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短編
6

2人でTVを観て、あれは何だこれは何だと他愛の無い会話をしながら食卓を囲む。

ここ最近、政宗に掃除機の使い方を教えたところ、とても楽しそうに掃除をしてくれるので家の中は清潔さを保っていた。

名無はどうなる事かと思っていたが、政宗が害の無い人間だと分かってほとんど警戒心は無くなっており、自然と受け入れてしまっていたのか敬語もいつの間にか無くなっていた。


「それにしても、ここへ来てお前の飯を何度も食ったが全部美味いな」

「え?そう?政宗には珍しい物もあったかもしれないけど、そう言ってくれるなら良かった」


少しはにかむ様に笑う彼女を見て、政宗は視線を逸らし話題を変えた。


「小十郎にも食わせてやりてえな…」

「小十郎?」


「ああ。アイツも料理が上手くて、その上畑仕事までやってた。その畑で採れた野菜はまた格別でな…」

「へえ…じゃあ帰る時お土産を持っていかないと…ぁ」



名無の言葉に政宗はハッと顔を上げる。
その言葉を発した本人も言葉を濁し、2人の間に少々気まずい沈黙が流れた。


『帰る』


政宗が元の時代へ帰るという事は、いるのが当たり前になっていたお互いが離れるという事。

そしてそれは『また会おう』と言うには遠すぎる距離。

どうして政宗がこの世界へ辿りついたか分からないが、元に戻れる確証は無い。
まして戻れたとして、それから2人が再会できる可能性はもっと低いだろう。


「あ、明日の仕事の準備しておかなくちゃ」

「明日は仕事休みって言ってたろ」


いたたまれない空気に政宗は提案をした。


「せっかくだし、外につれてってくれ」

「え」


ちょっと面倒臭そうな顔をした名無を見て、政宗は苦笑いしながら続けた。


「良いだろ?ここにいるのも楽しいが、いい加減身体も少し動かしたい」

「…そうだね、じゃあ最初だし人気の少ない公園でも行こうか」



決まりだ、と政宗は機嫌良く食事に戻った。



思い出の一つ位作ったっていいよな?

ここへ来る寸前、確かに俺は敵の砲撃を受けた。
真っ白になって目を覚ましたらここにいた、俺は助かった。
だが、他の奴等はどうしてる?
小十郎は、部下達は大丈夫だろうか。
あの戦いの場にいられない自分が酷くもどかしく、罪悪感に苛まれたが、どうする事もできない。

そしてそんな俺は、此処に、名無の側に居たいと願ってしまっている。

でもここにいる合間だけはせめて……。


「いてっ」


空の食器を持ったまま呆ける政宗の頭を名無が突然叩いた。


「何ボーっとしてるの?ほら、洗っちゃうからそれ頂戴」


いつもの調子に戻った名無に頭を小突かれ我に返る。


そして今日も何時もと変わらない夜が更けていった。

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