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短編
3

もちろん断りたいところだったが、本物の刀をチラつかせられ名無はyes以外の言葉を出せずにいた。


「と、とりあえず分かりました!
ただ一つだけ言っときますけど今の世は殺人は御法度ですからね!日本中の人々を敵に回すことになるんですから!」


最後に“日本の警察舐めんなよ!”と付け加えたいところは抑える。


「安心しろよ、俺だって訳分かんなくて不安なんだ。居候させてくれるって言うのに取って食いはしねえよ」


政宗は呆れながら刀を納める。
それを確認した名無は胸をなで下ろし、改めて政宗にこの世界について話した。

鉄の猪が走るとか、板の中に人がいるとか、基礎的な知識を与えるのに名無は頑張る、喉がガラガラになるのも耐えて。

政宗は「なるほど」「凄い」などと相槌を打ち、思っていたよりも新しい物への理解が早かった。



「―――という訳で、しばらく落ち着くまではこの家から出ないで下さいね」

「ああ、物凄い狭いが退屈しなさそうだ」


狭くったって決して安くはない家賃払ってやっと住んでるんだぞコラァ!
と政宗を罵りたい所だが何とか堪える。
仕方ない。まだこの世界の常識が分からないのだから。

何だかんだと話していたら夜も更けきってしまった。

名無はタンスから部屋着を引っ張り出すと政宗に手渡した。
サイズの心配はあるが、大きめだから大丈夫だろう。


「とりあえず今日は寝ましょう、それに着替えて下さい」

「ああ、悪いな」



なるべく着替える姿を見ないようにしてリビングのソファに寝床を作ってやる。
生憎余分な寝具は殆ど用意していない為、バスタオルをひいたり、クッションを重ねたりしながら即席ベッドを作った。

もちろん自分の寝室へは入らせない。



当たり前だ!私のベッドだ!取られてなるものか!


男女が一つ屋根の下で眠るのには勿論抵抗があるし、ましてや得体の知れない侍だ。

そう考えていると政宗の苛立たしげな声が聞こえた。


「Hey、本当にこれだけか?下はないのか?」

「ごめんなさい、政宗さんが着れそうなものはそれくらいしか無くて…明日服買ってきますね」


淡いピンク色で膝丈のスカートタイプのネグリジェしか入りそうになかったのだ、仕方ない。

下半身がスースーする政宗は“コイツ絶対楽しんでいやがる”と思いチラッと刀に目をやろうとするも、刀や甲冑その他は押し入れにしまわれてしまった。

着ていた服は洗濯機にぶち込まれてしまい、それが洗われていると気付いたのは内部に水が流れ込み出した頃だった。


仕事と余分なエネルギーを使った名無の身体は流石に限界を迎えてきて、もう政宗がいようがどうでも良いくらいに睡魔が襲ってきていた。


「明日も仕事なんで寝ますね、早番なので昼前には帰ってきますから。お休みなさい」


自らの恥ずかしい格好について盛大な溜め息を吐き、諦めた政宗。

寝室へと入り扉の僅かな隙間から顔を覗かせる名無に声をかけた。


「アンタ、名前は?」

「…名無です」


「Good night、名無」

「お休みなさい政宗さん」


パタンと扉が閉じ、2人にそれぞれの静寂が訪れる。


名無はすぐに泥のような眠りに落ちる。

政宗はソファで寝る慣れない感覚に何度も寝返りを打ったが、やがて疲れ果て眠りについた。



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あきゅろす。
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