短編
2
「…shit、俺とした事が不覚だったぜ。ん?なんだ?」
青い、お侍?
おぼつかない足取りで立ち上がったその人は、青い服に甲冑を纏っており、その右目は眼帯に覆われていた。
なんか、刀持ってるけどレプリカだよね…?
すごいクオリティのコスプレだ。
コスプレした不審者って危険度高いんだろうか?
強ばる身体を抑え、じりじりと玄関まで向かったが、そこへ辿り着く前に振り返ったコスプレイヤーと目が合ってしまった。
「おいアンタ、ここ何処だ?」
「…私の、家ですが」
そうか、そういうキャラ設定か。
見た目も凄いが設定もしっかりしてるコス不審者だな。
名無はとりあえず、相手を刺激しないように設定に合わせることにした。
「あの、どちら様ですか?何処から来たんです?」
「俺は奥州筆頭、伊達政宗だ。合戦の最中に砲撃を受けた筈だが、どうやら気絶してたらしい。
アンタが介抱してくれたのか?」
なるほど、内容もなかなかのクオリティだ。
不審者は不審者でもちろん恐ろしいが、ちょっと面白いかも。
などと考えまじまじとその姿を眺めていると、名無はある事に気付いた。
彼が動く度に擦れる甲冑の金属音の本物感、そしてよく見ればその甲冑には生々しい傷跡もあった。
さらには二の腕の部分の衣服が裂け、剥き出しになった肌に赤い筋が走っていた。
「怪我、してるんですか?」
「あ?ああ、不覚を取って斬られちまったらしい。俺らしくもない」
自著気味に笑う政宗を尻目に、名無は救急セットを持ち出す。
手当てというのは設定を崩さない行為にもなるし、そしてそれが傷メイクである事を確認する行為でもあった。
消毒液と包帯を取り出し、怯える自分を奮い立たせ側へ寄る。
「腕、出して下さい」
「あ?ああ、悪いな」
差し出された傷口に消毒液を吹きかけると僅かな発泡があり、政宗の顔は一瞬歪んだが苦痛を声には出さなかった。
それを見ると名無はそれが本物の傷口であることを知った。
「あなた…まさか本当に戦って…?」
「本当に?おいおい、俺を戦場から連れて来て介抱してくれたんだろ?」
突然ここへ出現した政宗も名無の訝しげな言葉に混乱した。
見渡せば物珍しい物ばかり。
会話もやけに噛み合わないようだ。
名無と政宗はお互い今の状況について話してみた。
そして話の中で色々検証し、政宗が身につけている物に実際触れたりしてみて、本当に彼が戦国時代の人間だと分かった。
しかし名無の心は晴れない。
コスプレ不審者と本物の戦国武将、どちらが危険かって微妙な所だ。
それに政宗は突然こちら側に飛んできたようだし、帰る方法すら検討がつかない。
頭を抱える名無に何かを決心した政宗は追い打ちをかける。
「悪いが、しばらくここに置いてくれ」
「はぁ!?」
かくして、政宗との共同生活が始まった。
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