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人魚の雫
01


「!」

リアンは、ハッと目を覚ました。
一瞬夢と交錯し、ここがどこなのか混乱する。
見慣れた部屋を見回して、ようやく意識が覚醒した。

ああ、ここは。

豪奢な部屋。
リアンは、毛布をそっとめくって、自分の腰から下を確かめた。
そこにあるはずのものが、あることを確認する。

リアンの腰から下は、魚のようなウロコに覆われたものではなく、二つに裂けた足がある。

ほっとして、リアンはベッドから起き上がった。
ベッドから降りると、よたよたとまだ拙いながら歩き出す。

王子から保護されている身で特になにもすることがなく、朝食の時間もまだなのでヒマなリアン。
リアンは稚拙に二足歩行をすすめ、豪奢な部屋から出た。
部屋から出ると、これまた豪華で絢爛な廊下に出る。
リアンはよたよたと壁伝いに歩きながら、最近覚えたばかりの城の内部を散歩してみようと思った。

足馴らしも含めて、城の中をもっと見てみよう。

「っ…」

階段などでは転びそうになったりするが、リアンは懸命に足を動かす。

やっぱり、二足歩行は難しい。

一週間ほど前まで人魚だったリアンは、ううむと唸り、翡翠色の瞳を包む長いまつげを伏せた。

人間って、大変だ。

はあ、とため息をつき、リアンは負けじと足を進める。
ろくに筋肉もついていない細く白い足はいかにもひ弱といった様子で、健康的に日に焼けすらりとした王子の足とは大違いだ。
いつもは歩くのを支え手伝ってくれる王子もそばにはいない。

リアンは、額に汗をにじませ、歩いた。
途中何人もの使用人に「手伝いましょうか」声をかけられたが、リアンは丁寧に礼を言い断る。
自分で歩けるようになりたい。

セドリックに、褒めてもらうんだ。

セドリック、というのはこの城の主でもある王子のことで、リアンは彼に恋をしていた。

今朝もみた、たびたび見る夢。
夕刻の浜辺で歌を歌い、人間の少年と過ごす。その夢は紛れもなくリアンの過去で、リアンは夢に出てくる少年が好きだった。
少年は鮮やかな金髪と深紅の瞳を持っていて、常に優しくリアンを見つめていた。

リアンはその夢の少年が忘れられず、長らく悶々と片思いをしていたのだが、つい先日、思わぬことで再会を果たしたのだ。

海で泳いでいたリアンの前に現れた、大きな船。そこに乗る何人もの人間たち。
始めは怖かったが、そこにいたある一人の人間に目を奪われて、リアンは固まった。

そこにいたのは、鮮やかな金髪と深紅の瞳を持つ端正な男だった。

夢の中の彼をそのまま成長させたような男に、リアンは釘付けになり、一目惚れをした。

ようやく探し求めていた彼に出会えた。

嬉しくて、さっさくリアンは王子に声をかけようとした。
しかし運悪く、突然の雷雨と大きな波の揺れが船を襲い、リアンも豪流に振り落とされた。
必死で沈みゆく王子をみつけ、引き揚げる。
浜辺まで運んだリアンは、王子が目を覚ますのを待ったが、その前に人間の少女がくる気配に身を隠した。
その少女が王子を抱きかかえ、付き人らしき人物に何事か伝えるのをみた後、リアンは海に戻った。





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