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「馬鹿」
「……悪い」
開口一番罵られ、返す言葉の無い太一。
「銃持ってるかもしれない事くらい予想つくでしょうよ! 沢田君も言ってたじゃない」
「……ハイ」
太一の左側に座り込み肩の治療を始める。左肩が赤色の淡い光に包まれる。
「ヒカリちゃん怒るでしょうねー撃たれたなんて知ったら」
「……空ぁ」
「何」
「……怒ってる?」
「当ったり前じゃない! 弾くらい避けなさいよあんたなら出来るでしょ!」
「いや無理だろ」
ヤマトが苦笑を零す。
「私がどれだけ心配してたか知らないで……。
あんた達無鉄砲だから敵陣突っ込んで大怪我してるんじゃないかとか、死んでるんじゃ……ないか……とか……!」
「ちょっ!? な、泣くな空!」
「お、おい、大丈夫か……」
「よかった……肩だけでよかったぁ……!!」
右手は肩に添えたまま、左腕で涙を拭う。
「空……」
「……ごめんな、空」
「……うん……」
気持ちを振り払うように頭を振る。そして笑顔で言った。
「おかえり」
「……ただいま」


§


宿に戻る。太一の肩は痕が残ったものの完治した。
「ごめんね太一、もうちょっとレベル高ければ痕残らなかったんだけど」
「いいよ、残っても。よく言うじゃん、“戒めとして残しとく”って」
「えぇ、馬鹿やったからね」
「……まだ怒ってる?」
「怒ってる。これで何の収穫も無かったら……」
「あ、それは大丈夫」
「あら、そう。教えて」
太一達は空に、バーで話した事、バーテンダーの事、そのあとの襲撃の事を話した。
「……そんなに有名だったの?私達」
「やっぱ空もそう思う?」
「えぇ……でもそんなに有名ならペンダント隠さなくてもいいかしら」
「いや、それはまずいんじゃないか? ただ知られてるのと、言い触らしながら歩くのじゃ違うだろ」
「あぁ、そうねぇ……」
会話が途切れる。すると空が何かを思い出したように言った。
「あぁ、そうそう、太一の携帯鳴ってたわよー。長かったから電話じゃないかしら」
「お! さんきゅー」
液晶には『不在着信あり1件:沢田』と表示されていた。
「あ、何だ沢田じゃねーか……空出てもよかったのに」
「あらそうなの? じゃあ次からそうするわ」
「おう。緊急かもしれねーしな」
そう言ってかけ直す。待ち構えていたのか、1コール半で電話に出た。
『もしもし!?』
「おう、沢田。わりーな」
『あーびっくりした……留守電にもならないからどうしたのかと』
「あーケータイ置いてったからな。で、何?」
『薬の成分が出ました』
「おぉ! で、何だった?」
『わかりません』
「……は?」
『今まで見た事無い成分なんです。今隼人と泉さんが突貫で分析してます』
「……なんだ、それ……」
「どうした、太一?」
「いや、成分が出たんだけど……」
『八神さん、そこに今石田さんと武之内さんいますか?』
「あ、あぁいる」
『なら、スピーカーホンにしてください。俺から説明します』
「わかった」
太一の携帯をスピーカーホンに設定する。
『あー、あー、聞こえますかー?』
「あぁ、大丈夫だ」
『八神さんにはさっき言ったんですけど、薬の成分が出ました。
ただ、今まで見た事無い成分だったんで隼人と泉さんが突貫で分析してます』
「見た事無い成分?」
『はい。少なくとも今までに知られている薬とは全く違います』
「似てる薬とかもないの?」
『今の時点ではまだわかんないです。もしかしたら何かに似てるかもしれないんですが、そこまではまだ』
「全く新規の薬をわざわざ作ったって事か? ごくろーなこった」
『ほんとですよ……』
「他には何かあるか?」
『いえ、今は特に。そちらはいかがですか?』
「太一が撃たれたわ」
「ちょ、空!」
『はッ!? え、ちょ、撃たれたって……大丈夫なんですか八神さん!?』
「治したから大丈夫よ。ちょっと痕は残っちゃったけど」
『大丈夫なら……いいですけど……。
……ん? あぁ、ちょっと待って、すいませんヒカリちゃんが話したいっていうんで代わりますね』
「げ」
『もしもし?』
「……ハイ」
『帰って来たら3発くらい殴らせて』
「……ハイ」
『……え、もういいの? あ、うん。……もしもし?』
「太一の自業自得だから気にする事ないわよ、沢田君」
『あ、はは……』


§


「――ったく、相変わらず無茶ばっかするんだから」
「心配?」
「当たり前じゃない……岳君心配じゃないの?」
「太一さんは殺しても死ななさそうだし、兄さんは無茶な事しないからあんまり心配してない」
「……そう」
「わかんないよ、高石。あーいう人に限ってひょいと僕らの前からいなくなったりするんだ」
「何だそれ、猫じゃあるめーし」
「“神様は素晴らしい人ほど手元に置いておきたくなる”って言いますもんね」
「ちょ、伊織君、さすがにそれは不吉……」
「ぅあ、すみません……」
「痕、残っちゃったんだな」
「空さんBランクだから……Aランクなら痕残らないんだけど」
「あぁなーる……」
「銃弾、貫通してればいいけど……。摘出はSランクにならないと出来ないのよ」
「そうなんですか?」
「うん……」
「うちにもSランクの治癒持ちはいるから大丈夫ですよ、京さん」
「ツナ」
「それなら、大丈夫ね」
「薬は、まだ……?」
ヒカリの問いかけに、綱吉は無言で首を振った。
「そう……」
「そういえば、何かあるんじゃないの? ツナ君」
岳に促され、おずおずと綱吉が口を開く。
「……あのさぁ、“選ばれし子供達”って言葉に心当たり、ある……?」
「!!」
大輔達6人だけでなく、同じ部屋にいたミミと丈もその言葉に強く反応した。
「……え、何?」
「綱吉さん、それどこで聞きました!?」
「い、ま、メールに書いてあって……俺達知らないから聞きに来たんだけど……」
「誰から」
「ジェッソから……」
「見せてもらってもいいかな」
「え、うん……ごめんランボ、ちょっと印刷して持ってきて」
「はーい」
ランボが持ってきたメールの文面は以下のようなものだった。
『はろー☆
選ばれし子供達とははじめましてだね、白蘭っていいます。
どうせボンゴレと一緒にいるんだろうからこっちにメール送っちゃうよ。
これ以上の深入りは禁物だよ。君達は一般人なんだから。
大体酷いよねー君達。僕たちは1つの組織なのに、そっちは2つが手組んでるんだもの。
手出しは無用だよ、これはボンゴレとジェッソの喧嘩なんだから。
じゃあねー☆忠告はしたよ!』
「はッ、従う必要はねーな」
「だね」
「ていうか、僕達一般人じゃないですし」
「え、そうなの?」
「伊織」
「あ、すみません大輔さん……」
「あ、言っちゃいけない系?」
「うん……ごめんね?」
「ううん、それなら俺達も聞かないから。元々そんな奴らいっぱいいるしね!」
「それは笑顔で言うことなのか」
「あはは!」
ふと、綱吉が真剣な顔になる。
「“異世界を旅してた”ってのと関係ある?」
「……何でそう思った?」
自然、大輔の顔も真剣なものになる。
「勘」
「前も言ってたね、“勘が鋭い”って。それ教えてくれたら話してもいいよ。正解だし」
「え、うん。“超直感”って言ってね、」
信じてもらえるかな、と前置きをして、少し言い淀んだあと話し始めた。
「あの、ボンゴレのボスの血筋にだけ伝わる直感でね、“見透かす力”とも言うんだけど……」
「見透かす力?」
「うん。嘘の中に混ざる真実を見抜くとか、幻術がわかるとか、人の動きの予兆みたいのを感じ取ったりするの」
「巫女の予知とは違うの?」
「うん。確定未来がわかる訳じゃなくて、飽くまで勘だから。
それに、初代ボスから続くボンゴレボスにしか発現しないの」
「へぇー……」
「血筋って……もしかして、ボスは皆血が繋がってるんですか?」
「うん、初代からずっと。9代目は俺のおじいちゃんだし」
「そうなんだぁ」
「さ、聞かしてもらうよー。さっきは聞かないって言ったけど」
「まぁ、言い当てられちまえばなぁ」
「ねぇ。……僕達はね、都市政府直轄の、“異世界探索部隊”なんだ」
「“異世界探索部隊”……」
「政府直轄? マジで?」
「山本」
「うん。太一さん達8人が1期、僕ら6人が2期。高石とヒカリさんは両方のメンバーだよ」
「あ、じゃあ俺が知ってたのは1期のメンバーだけだったんだ」
「そういうことになるわね。1期は有名だし」
「俺知らねー。何で有名なん?」
「その世界が見つかったばかりだったからよ。やっぱり何事も初めては大々的になるわ」
「あー、なーる」
「ねぇ、それってどんな世界?」
「悪い、一切口止めされてっから言えねーんだ。身分明かしてもいいからそれだけは喋んなって」
「あ、そうなの? ごめんね」
「……調べようとかすんなよ?」
「…………しないよ?」
「今の間は何だ」


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