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1 #01
 『オニイチャンノオナマエハ?』
─────それが、僕の初めて聞いた、人の声だった─────

 まだ雪の残る2月下旬。奏音が死んでから六週間が経った。あの雪の日からずっと僕の心にはポッカリと穴が開いていて、自分の中に自分が居ないみたいだ。いつからか、夜中に家を抜け出し、昏い街を徘徊するのが習慣になっている。今日も零時過ぎに家を出た。家族はそれに気付いているのだろうが、なにも言ってこない。何も言ってこないということは、それほど家族にとって僕はどーでもいい存在なのだろう。…まぁ言われたところで僕には聞こえないんだが。
 フッと自嘲染みた笑いが漏れる。夜の街はとても静かで僅かな音さえも、その暗闇の静寂に飲み込まれてしまう。元からそこに音など存在しないかの様に。その世界には音という概念さえ存在しないかの様に。彼は彷徨い続ける。それは失くした自分を探す様に。亡くした幼馴染を捜す様に。
 全身が氷の様に冷たくなるまで彷徨い歩いた頃、彼は或る公園に辿り着いた。彼がよく幼馴染と遊びに訪れた公園。その周りを囲む様に植えられた桜の中に一本だけ、暗闇の中を白くぼんやりと浮かび上がる様に咲いている大きな樹があった。冬の夜の静寂に咲き誇る様な桜。


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あきゅろす。
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