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鈍感なのも才能

「あの、元就様」

「……」

「すみませーん?」

「……」

一体何だと言うのだ、私の主は。何を怒っているのかはわからないが返事くらいしてくれてもいいだろうに。大体今日は大人しくしていたつもりだし(というか朝っぱらからずっとこの状態だから何も出来ない)元就様の機嫌を損ねる様な事はしていないはず。

「あー…良い天気ですねぇ」

「……」

「いつもに増して日輪が輝いておりますよー」

「……」

もう本当に嫌だ。何だ、私の日頃の行いが悪いのか。居心地が悪すぎる。未だこの城に居座っている元親様は釣りに出掛けられているからまだ帰っては来ないだろう。嗚呼、出来ることなら早急にこの部屋を去りたい。だが元就様が何も仰らないのに勝手に退室するなど失礼だから出ようにも出られない。もういっそのこと「オクラ様」とでも呼んで部屋を追い出されようか…。そんなことを考えていると襖が静かに開いた。

「元就様、お茶をお持ちしました」

「そこに置いておけ」

「かしこまりました」

一人の女中が盆に湯飲みを乗せ部屋まで運んできた(おそらく私が見当たらないからやってくれたのだろう。勿論いつもは強制的に私の役目である)

というか何でしょう、今のは。私がどれだけ声をかけてもうんともすんとも言わないくせに女中には返事するんですか。左様ですか。

返事が無いという事からの居心地の悪さに加え、何か他の居心地の悪さも感じた。どうせ私がどれだけ声をかけようが反応が無いのならもう黙っておくしかない。それに今のやり取りを見て尚声をかけるなんて癪だ。

今ならオクラ100本は食べれるだろうな…等と口には出さない反抗心を心の中で育てていると、今まで沈黙を保っていた元就様が口を開いた。

「わからぬ」

「元就様、主語が抜けております」

「貴様は阿呆だ。しかも役に立たん」

「ようやく口を開いたかと思えば飛び出てくる暴言の数々に私は早くも泣きそうです」

「だが…」

ぐっと眉間に皺を寄せる元就様。話の流れ的にそこまで険しい顔をする必要はあるのだろうか。

「忍としての貴様より、阿呆な貴様のほうが良いと思っておる」

それは何故なんだ、と心底不思議そうな顔をされる。いや私のほうが不思議ですよ元就様。何ですか、阿呆な私が良いって。馬鹿にされてるのかそうじゃないのかよくわからないじゃないか。

「ていうかそんなこと考えてたんですか。しかもそれと私を無視するのは何の関係があるんですか」

「貴様と距離を置くことによって何か分かるかもしれんと思ってな。だが貴様はやはり役に立たなんだぞ」

「失礼な!足の痺れを我慢して元就様が口を開くのを待ってたというのに…って痛い痛い痛い!足踏まないで下さい!」






「あいつら鈍過ぎだろ…」

襖の向こうで釣りから帰って来た元親が呆れた様にそう呟いていたことは誰も知らない。


(やっぱり世話役は私が良いでしょう?)(…ふん)



あきゅろす。
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