10万打フリー企画[12/06] ◆大人と子ども >>獄ヒバ。獄寺クンの片思い話。優菜様リク。 大人は嫌いだ。 子ども過ぎる俺は、もっと嫌いだ。 ■大人と子ども■□■ 煙草を吹かしながら屋上でサボり。盛り上がっているグランドで行われている体育の授業をぼんやりと眺めながら、フーッと煙を吐き出した。まだ長い煙草を地面に落として靴で火を消す。 「…ちょっと、学校にゴミしないで。」 後ろから突如かけられた声に驚いて、俺は大袈裟に肩をビクつかせた。後ろを振り返れば不敵な笑みを浮かべながら立っていたのは風紀委員長様だ。いつもならまずトンファーを喰らわせてからの忠告のはずが、今日は機嫌でもいいのか忠告だけだった。 ちっ、と舌打ちを零しながらも渋々煙草の吸い殻を拾う俺はなんて情けない。別にこいつが怖い訳でもなんでもない。ただ、俺はこいつに“弱い”。“戦闘力が”とか“頭脳が”とかではなく、俺はこいつに頭が上がらなかった。理由はただ一つ。わかっちゃいるが、認めたくはない。知らないフリを決め込む。 「…今日は殴らねぇのかよ。」 拾った煙草をどうしようかと指先で遊ばせながら言う。すれば雲雀は少し目を丸くして、鼻で笑いやがった。 「何?殴られたかったの?」 君はとんだマゾヒストだね、と馬鹿にした言葉を並べる。ち、違ぇよ!と当たり前の否定。(雲雀の口から当たり前のように“マゾヒスト”だなんて言葉が出て、少し戸惑ってしまった。)クルクル遊んでいた煙草に視線を落として、何とか動揺を鎮める。 フーッと息を吐き出しながら視界の端で動いたものを感じる。動いたのは雲雀の手。俺に、何かを差し出されたのがわかった。 ゆっくり視線を上げていけば雲雀の細い指が持っていたのは、小さな真っ黒の携帯灰皿だった。 「…な、んだよ。」 「あげるよ、君に。…もういらなくなったんだ。」 それに、僕の見ていない所でまた学校に捨てられても困るからね、と雲雀はまた笑った。 雲雀からモノを貰えるだなんて。気分が舞い上がりそうだった。スッと手を伸ばしかけた俺は思い留まるように手を止めた。頭に引っかかったいくつかの疑問が、俺をそうさせた。 煙草を吸わねぇ雲雀が何故こんなモノを持っているのか。元々吸わなかった奴が“いらなくなった”ってのはどういうことなのか。 その疑問が予想させる答えはただ一つだった。 「…それ、やる奴が間違ってんじゃねぇのか?」 雲雀の表情がピクリと動いた。やっぱりだ。嫌なこと程、的確に当たってしまう俺の直感に少し苛っとする。 「もう知らないよ、あんな人。」 回しモノは嫌かい?と雲雀は困ったように笑う。話し方からして、大方ケンカでもしたんだろう。ケンカをしても何をしても、雲雀の頭の中はあいつばかりで。大人なあいつに勝てない子どもな俺。 あいつの知らないプレゼントを貰っても、勝ったことにはならない。惨めなだけだ。(なんてのはただの建て前で、傷付いた顔をする雲雀を見ていられなかっただけだ。) 「ちゃんと、仲直りしろよ。」 そう言えば雲雀はムッとした表情を浮かべて、君には関係ないでしょ。と俺を突き放す。 ケンカをしても“恋人”であるあいつと、こんなに近くにいても“無関係”な俺。俺がこの気持ちを認めたところで何の変化も起こさないこの関係性に、少し理不尽さを感じる。 「…後悔だけはすんなよ。」 別にあいつを応援してる訳じゃない。俺だって幸せになりたい。でも、それ以上に雲雀に傷付いてほしくない。(なんて哀れで惨めで意気地なしな俺!) 真面目に話す俺を見て、雲雀は視線を反らせた。でも俺の言葉はちゃんと雲雀に届いて、雲雀の背中を押していたようで、少し考え始めた雲雀がいた。プライドの高い雲雀の中で起こっている葛藤。あの雲雀の行動を押し動かすにまで至った俺のポジションは昔に比べると随分とレベルアップしているようだ。 「…まさか君に説得されるなんてね。」 優しく笑った雲雀が俺に言った言葉。まるで俺を認めてくれたような気がして、少し恥ずかしくなった。 「お礼にそのゴミだけ引き取ってあげるよ。」 俺の指先で行き場をなくしていた煙草の吸い殻を雲雀がヒョイと手に取った。そしてその吸い殻は雲雀のもう片方の手に納められた携帯灰皿の中に身を隠した。(雲雀の指先が俺の指先に少し触れただけで心臓が飛び跳ねる程に動揺している俺の頭は、どうかしている…。) 「…それ、プレゼントじゃなかったのか?」 「いいの。それぐらい君には感謝してるんだ。」 吸い殻の入ったプレゼント、使い回しのプレゼント。それは雲雀が俺を認めてくれた証のような気がした。 今はまだ大人のあいつには勝てない子どもの俺。 俺は大人が嫌いだけど、 子どもな自分を少しでも好きになれるよう、 強く願った。 *fin* ●ァトガキ●○● 10万打フリー企画第6のお題『獄ヒバ。切甘で獄の片思い。』でした。優菜様リク,ありがとうございました! 何やら意味わからん感じに仕上がってしまいましたが…大丈夫でしょうか(^_^;) よろしければお持ち帰り下さい。 オマケ↓ 後日。 「はい、これ。」 また差し出された雲雀の手。今度は灰色の携帯灰皿がその手には納まっていて…。目をパチクリとさせている俺に、雲雀は更に手を伸ばしてそれを突き出した。 「…早く受け取りなよ。僕が馬鹿みたいじゃないか。」 「え…、何だよ、これ?」 白々しくとぼける俺に、雲雀は苛っとしたように携帯灰皿だよ、他に何に見えるの?と唇を尖らせた。 「お、俺に?」 「君は頭が弱いの?他に誰がいるのさ。」 馬鹿は嫌いだよ、と手の中の携帯灰皿を俺に押し付けた。雲雀の手から俺の手に渡った携帯灰皿に、予想以上に戸惑うのは俺で。思うように言葉が出ない。 「…あ、――っと…」 「今度はあげる相手も間違えてないよ。」 「お、おう。」 それはつまり、俺の為にプレゼントしてくれたという事実。鼓動がみるみる早くなる。嬉し過ぎて、どうにかなってしまいそうだ。 「大事にしなよね。」 「おう。大事にする。 …あ、りがとな。」 当然だよ、と笑った雲雀の背中を見送って、俺は手に握りしめたプレゼントを見て噛み締めた。 …獄寺君にも幸せを、というくだらない小話。 . ⇒BackNext⇒ [戻る] |