Reborn★Long
side.dino
>>ディヒバ←ツナ。ディノの初恋話。
あなたの初恋は、
いつですか?
■first love story side.dino■□■
「よっ!」
下校途中、突然かけられた声にビックリして振り向くとそこには見慣れた金髪の男の人。肩にも見慣れたスーツを着込んだ赤ん坊。
「ディーノさんにリボーン!?」
チャオッス、なんて白々しく話しかけてくるリボーンを無視してディーノさんに視線を送る。ディーノさんはいつものようにニコニコ笑って帰ろうぜ、とまるで俺の家を自分の家かのように帰宅を急かした。
****
「今日はどうしたんですか?」
部屋に着くなり母さんの用意してくれた氷入りの冷たいお茶とおやつの入った皿を机に並べながら敢えて問う。…そう言えば俺、ディーノさんに挨拶もしてないや。そんなことを思っていたらディーノさんが口を開いた。
「ちょっと仕事で日本に来ててな。思ったより早く終わったからツナん所に来たんだ!」
――ウソばっかり。
本当は雲雀さんに会いに来たくせに。実は学校の応接室に入っていくのを目撃していた俺。そのお陰で少しだけ不機嫌な俺はやけ酒ならぬやけ茶を一気飲み。
別にディーノさんが嫌いな訳じゃない。寧ろ好きだし、カッコイイとも思う。
だけど俺だって雲雀さんのことが…
なんて、こんなのはただの負け犬の遠吠え。わかってはいるけどムカつくものはムカつく訳で。早く帰ってくれないかな、なんて思いながら俺は私服に着替え始める。
「――ツナのさ、初恋はいつ?」
あまりに突拍子もない質問に唖然とする俺。珍しくリボーンもいひょうを突かれたらしく驚いた顔をしている。実はさぁ、と少し照れた様子でディーノさんは話の続きを口にした。
「俺、今日初恋の子の夢見てさぁ!ビックリしたゼー!」
へぇ、ディーノさんの初恋は雲雀さんじゃないのか。…って、当たり前か。
俺はもちろん雲雀さんが初恋。初恋ってなんか特別な感じがするし、少しだけディーノさんを上回った気がした。(所詮自分に対する慰めにしか過ぎないが…)
そんな試行錯誤をしている中、ディーノさんの初恋エピソードを勝手に(別に聞きたいって言ってないのに…)話し始めた。
雲雀さんに喋ってやろう、なんてちょっと思った。俺は小さい人間だ。恋してるんだ、仕方がない(と、言うのは言い訳か?)。
「俺がさ、まだツナぐらいの時かな?マフィアになんてなる気はさらさらなくて、へなちょこディーノだったとき。俺、並盛ではねぇけど日本に来たことがあってさ〜―――
『坊ちゃん!』
キャバッローネファミリーの一員であるロマーリオが肩に厄介な赤ん坊を乗せて俺を追い掛けて来る。俺は必死にお決まりの捨て台詞をはいて逃げる。
『もぅ俺のことは放っておいてくれッ!』
旅行だ、と言われてのこのこて付いて来てしまった日本の地。本当は日本のマフィアに俺を紹介するために連れて来たらしい。
―――騙されたッ!
もう怒りというか自分の馬鹿さ加減に呆れ返った。これまでにない程に全力疾走してロマーリオから逃げる俺。きっと必死過ぎて酷い顔だったに違いない。擦れ違う日本人の視線も少し気になったが今はそれどころではない。
あの赤ん坊から逃げ切らなくてはッ―!
初めて来た日本。左も右もわかったもんじゃない。泊まっていたホテルに戻れるかもわからない。ファミリーの皆の元に戻れるかさえわからない。
それでもよかった。どうせマフィアになる気なんてなかったんだ。ちょうどいい機会じゃないか。
無我夢中で走っていたら落ちていた石ころに躓いて転んでしまった。擦りむいた膝が痛い――。いつもならすぐにでも駆け付けてくれるロマーリオさえいない。全て俺の意思であるはずなのにすごく寂しく思う。転んだまま泣き出しそうだった。
赤く綺麗に輝く夕日さえもが、俺を嘲笑っているようで…夕日の光か涙かわからないほどに目の前がキラキラと輝いている。
そんな感情にうちひしがれているとふと、目の前が暗くなった。感じるのは、リボーン程に小さくはなく、ロマーリオ程に大きくはない人の気配。
顔を持ち上げて見ると、そこにいたのは俺よりも遥かに幼いであろう女の子。何故だか、その女の子が輝いて見えたのにはビックリした。
『…だいじょうぶ?』
鮮やかなピンクのワンピース、白い肌、柔らかそうな黒い髪、クリっとした大きな目。幼いその女の子はしゃがみ込んで俺に小さな手を差し延べた。幸いにも少しは日本語を勉強していた俺は女の子が心配してくれているのがわかった。
格好悪いとは思いながらも、今にも溢れ出しそうな涙と鼻水を啜り堪え、その小さな手をとった。
『…ありがとう。』
一言お礼を口にすると女の子は天使みたいに柔らかく微笑んだ。その笑顔に、泣きたかった気持ちとか、もやもやした気持ちが全て飛んでいってしまった。
『にほんご、はなせるんだね、がいこくじんサン。』
その子が微笑む度に締め付けられる胸。もしかして……病気?
そんなとき、後ろから聞き覚えのある俺の求めていた低い声。
『――坊ちゃ〜んッ!』
慌てて振り向くと、そこにいたのは走りながらこっちにやって来るロマーリオ。リボーンの姿は、ない。(どうやら怒られずに済みそうだ。)
ふと、女の子の方を振り返ると優しく夕日のように眩しい笑顔で俺を見ている。風が吹いて、彼女の黒い髪が揺れる。
『ふふ、よかったね。ばいばい!』
そう言って走り去ってしまった女の子。顔が熱い。胸が熱い。胸が苦しい。本当、病気かも知れない…。
『…誰だ、あの女は?』
突然塀の上から聞こえてきた声。リボーンだ。ビクつく俺に投げかけた質問。その答えを一番欲してるのはこの俺だ。
俯いたまま変な汗が背中に流れるのを感じていると、リボーンが俺の肩に乗っかってくる。そしてニヤリと怪しい笑みを一つ浮かべた。
『へなちょこがいっちょ前に恋か…。』
……こい?コイ?KOI?koi?鯉?
これが、恋?
意識すると熱かった顔がさらに熱を持ち始める。夕日に負けないくらいに真っ赤に染まっているであろう俺の顔。女の子が見えなくなると同時に、俺の隣に辿り着いたロマーリオが、顔が赤いぜ?と息を荒げて話しかけてくる。うるせー、と一言だけ言葉にして…
俺は俺の初恋を噛みしめた。
「ってのが俺の初恋!いや〜、なんか照れんな!」
誰にも言うなよ、と顔を真っ赤にし、はにかみながら笑うディーノさん。
“誰にも”って…
“雲雀さんに”の間違いでしょう?
絶対話してやる、なんて固く決心した俺(は、セコい?)。ディーノさんの屈託のない笑顔が眩しかったのは、きっとディーノさんが羨ましかったから…。
雲雀さんがいつか、俺に愛ある微笑みをくれるような未来を夢見て、
今日は太陽のような人と一緒に夜をを迎えた。
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