Reborn★Long
冷戦の始まり
>>黒ツナ+ディノ。黒ツナ降臨。
ディーノさんに言われて、応接室をリボーンとともに出た俺。俺の差し伸べた手を受け取ってくれた雲雀さんが、不安そうな顔をしていたのに雲雀さんを放って出てくる俺は最低だ。
雲雀さんとディーノさんの間にあったことを、俺は知らない。もしかすれば命に関わるような大きな問題かもしれないし、もしかすれば目玉焼きにかけるのは醤油なのかソースなのかでもめているだけなのかもしれない。ただそんなのはどうでもよかった。
雲雀さんがディーノさんを好きだ、という事実だけで手一杯だった。
そんな中、(二人に何かがあったからだとしても)俺の手を握って、少しでも俺を必要だとしてくれた雲雀さんが嬉しかった。
そんな雲雀さんを放って出てきたんだから、話は矛盾だらけだ。…理由は、ちゃんとある。俺は大きな賭に出たんだ。
もし二人が元に戻るならそれでよかった。この状態が続くのならまたそれでもよかった。雲雀さんが俺を選んでくれるなら何て喜ばしいことかッ!
答は三種類。
確率なんてものは存在しない。
さぁ、どう転ぶかな?
「リボーン、お前あの二人に何があったか知ってんの?」
暇つぶしの会話。雨が降りしきってるもんだから少し止むまで校舎の出入り口で雨宿り。リボーンは俺の肩に偉そうに足を組んで座っている。横目で覗く限り、リボーンの表情は微塵も変わらない。(リボーンのこういう所を見ると腕の立つヒットマンと言うのも妙に納得してしまう。)
「俺を誰だと思ってんだ?」
質問に対して的を射た答は返ってこなかった。だがリボーンの言葉から導き出せる答は一つだ。
雲雀さんとディーノさんの間に何かあったと知りつつ二人を会わせるなんて、なかなか性格の捻曲がった赤ん坊だ。(あんまり人のことは言えないが…)
リボーンがあの二人のことを知ってるんだったら、俺と雲雀さんのことも知ってるんだろうな、なんてぼんやり思う。するとピョンと飛び降りたリボーン。綺麗に着地して、俺の顔を見上げた。大きな瞳に真っ直ぐに見つめられると、何もしていなくても後ろめたい気持ちになる。
「あいつらの問題に俺が首突っ込むのはおかしい。それに、お前らの問題に首を突っ込むのもまた間違いだ。」
だから俺は何も言わねぇし、何もしねぇ。とリボーンは俺に言い捨てて、レオンを傘に変身させ一人で先に帰ってしまった。
確かにリボーンの言う通りだ。(もしかして俺の取った行動を肯定してくれてる?)リボーンの言葉に内心嬉しく思いながらも、俺も傘に入れてほしかったと小さくなっていく後ろ姿をぼんやりと眺めていた。
「――ツナッ!」
そのとき、後ろからかけられた声。ゆっくり、振り向くとそこにいたのは…ディーノさんだけだった。
「ディーノさん!あれ、雲雀さんは?」
なんて、白々しい台詞。
なんて、白々しい態度。
俺にもこんなことができたんだな、なんて思ったり…。明らかに俺の言葉に対して引きつっている彼の端正な顔。二人の間に“何らかの変動”があったという証拠。
…もしかして、俺有利に動いちゃってる?
だとすれば、何て愉快!
ごめんね、ディーノさん。こんな質の悪い弟分で…。
でも元はといえば雲雀さんを傷つけたあなたが悪いんですよ。今更後悔したって、もう遅い。だって雲雀さんが傷ついたと言う事実は一生雲雀さんの胸からは消えないから。
「仕事がまだ残ってんだってよ。」
それは、本当?
きっと嘘。証拠はないけど…きっと嘘。
あはは、笑っちゃうよね!
俺よりも遥かに滑稽な兄貴分。あんなにも素晴らしい人を手放すなんて、それは“愚か”以外の何物でもない。
「…傘ねぇのか?」
車、校門前につけてあるから乗ってくか?とディーノさんの裏表のない優しさ。(俺にそんなに優しくできるのに、何故雲雀さんに優しくできないのかは俺にはわからない謎だ。)ありがとうございます、と裏表のある笑顔を見せてディーノさんの持っていた大きめの黒い傘に入れてもらい車へ向かう。
俺が雲雀さんをつけ込んでいると知れば、この人はどんな顔をするかな?
まずは雲雀さんの答を待つのが先だ。だから俺はこんなにも大きな楽しみを胸に、楽しみのターゲットである人の車に乗り込んだ。
車の中は俺には全く歌詞の理解できない洋楽が流れている。あまりにも暇だから、ちょっとつついてやった。
「ディーノさんと雲雀さんって、付き合ってるんですよね?」
ピクッと反応を見せた運転席に座るその人。どんな答が返ってくるのか楽しみで仕方なかったけど、それを悟られないように笑顔は隠す。こっちの手の内がバレたんじゃ楽しみも半減だもんね。
「…なんで?」
返ってきた答はなんてつまらない言葉。なんで?って、知りたいからに決まっているでしょう?楽しいからに決まっているでしょう?見当外れな答に俺はがっかりする。(勿論笑顔は忘れない。)
「雲雀さん、最近元気ないみたいなんですよね…だから、どうしたのかなぁって。」
今日も別々みたいですし、とチラッとディーノさんを覗き見る。仄かに引きつった笑顔。(マフィアのボスがそんなんでいいんですか?)
「よく恭弥のこと見てんだな。」
いつもの笑顔に戻ったディーノさん。話を核心に持っていこうとはしない彼の態度。そうこうしている内に家へと辿り着いてしまった。(なんてつまらない…)
「ありがとうございました。寄って行きますよね?」
とりあえず形だけのお礼を言ってターゲットをカモフラージュした罠へと誘い込む。
「いや、今日は帰るわ。仕事残ってんだ。」
また来るよ、と笑うディーノさん。(嗚呼、逃げられてしまった…)そうですか、と残念そうな表情を浮かべて車を出た。(こればっかりは本当に残念だった。)
雨はすっかり上がっていて、コンクリートに残る水溜まりだけが雨が降っていたことを主張する。
「じゃあ、さようなら。」
「おう、またな!」
愛しの姫を巡った…
俺と、
ディーノさんの、
―――――冷戦の始まり。
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