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Reborn★Long
秘密の関係
>>ディノ←ヒバ→←ツナ。三角関係の始まり。




学校に忘れ物をするなんてことは、俺にとってよくある話だ。でも鞄ごと学校に忘れてくるだなんて…いくら俺がダメツナだからって、こればっかりは前代未聞だ。鞄の中には宿題は勿論、空の弁当箱も入っているわけで…。取りに行かざるを得ない。

そんな訳で俺は、夜の不気味な学校に行くはめになった。(まぁ、俺が悪いんだけど…)



****


懐中電灯を照らし、真っ暗な廊下を進む。鞄を取りに行くのに通った廊下に灯りなんて一切付いていなくて照らされる懐中電灯が無駄に気味悪かった。



「…ふッ、グス――」


そのとき、聞こえてきたのは――誰かのすすり泣く声だった。



――――おばけェッ!?



勿論俺の頭は真っ白になった。変な汗まで掻いてくるし、体は震えてくるし、腰も抜かしてしまいそうだった。

すすり泣く声が聞こえてくるのは、応接室だ。あの天下の風紀委員の活動拠点ですすり泣くおばけだなんて、なんて怖いもの知らずなんだ!(と言うか、風紀委員に恨みのある奴の幽霊か…?)


人間ってのは不思議なものだ。怖いくせに好奇心とかそんな類のものの所為で、震える足を必死に前に出して覗こうとしている。所謂、怖いもの見たさってやつ?






俺は足音を立てないように警戒しながら応接室へと歩き出した。少し隙間の開いた応接室の扉。勿論電気なんてついていなくて、蒼白い月の光だけが妖しく応接室の中を照らしていた。月明かりに照らされるソファーに…幽……霊?




「ひ…雲雀さんッ!?」


そこにいるのは幽霊でもなくて、さっきの泣き声もおばけではなくて、全ては…あの雲雀さんだった。

風紀委員長且つ不良の頂点に君臨する雲雀恭弥ともあろう者が、夜の学校で一人隠れて泣いている。そんな、事実。何だか胸が苦しかった。



キィィイ……



古い扉を開けるような音が轟いた。(ほんとは静かに入りたかったのに…。俺は何をするにしてもダメツナだ。)

雲雀さんが大きく体をビクつかせた。ソファーに突っ伏していた頭をゆっくり、ゆっくりと上げ、こちらに振り向く。淡い月明かりによって徐々に照らし出される雲雀さんの顔。

頬を伝う数えきれない程の涙の道筋。赤くなった目尻。止まることのない嗚咽。




なんて…弱り切った人だろうか。


こんなにも脆い雲雀さんを見たのは初めてだ。




「…ひ、ばりさん?」


雲雀さんは俺の存在を確認すると慌てて止め処なく流れ落ちる涙でぐちゃぐちゃになった顔を手で拭う。

「…ッ、何?下校時間は、とっくに過ぎてるけど…?」

顔を伏せて雲雀さんは平然を装う。鼻を啜る音だとか、嗚咽混じりの声だとかが痛々しかった。普段の雲雀さんからはとてもじゃないけど想像なんてできない姿に俺は戸惑うしかない。



ただ、こんなダメな俺だけど…







この人を守ってあげたいと、深くそう思った。










「…どういうッ、つもり――?」


戸惑っているのは俺だけじゃないようだ。雲雀さんも突然のことに対処できなかったみたい。

俺はその想いを胸に…泣いてる雲雀さんを抱きしめていた。



「…どうして雲雀さんが泣いてるのかはわからないけど……





泣きたいときは、泣いてもいいんじゃないですか?」


俺の言葉が届いたのか、雲雀さんはまるで子どものように俺の腕の中で泣きじゃくった。


「ふッ、ぅわーーーン、…ひッ――」



あんなにも気丈で何物にも動揺しない雲雀さんをここまで追い詰めたものは何なのか、ただ疑問に残るだけだった。彼を抱き締める腕に力が入る。落ち着かせるように頭を撫でると、雲雀さんの泣き方は少しずつ収まっていった。


「…ッ、ぅ…ふ――さ、わだ…、さわ、さわだ、沢田、沢田ッ――ッ!」


俺の制服に深い皺ができる。千切れちゃうんじゃないかと思う位に、雲雀さんは俺の制服の背中を握る。別に千切れたって構わなかった。ただ、早くいつものように強気な雲雀さんに戻ってほしかった。

こんな雲雀さんを見てる俺も…辛かった。


何度も何度も俺の名前を呼ぶ雲雀さん。何度も何度も繰り返される俺の名前。




あなたを苦しめているのは…、何ですか?








暫くそのままで、雲雀さんはまだしゃくり上げながらも俺の肩を押し返した。

「……ご、めん…。」


もぅ大丈夫、と雲雀さんはよろめきながら、彼のいつも仕事をしている机へと足を進める。机に両手を着いて、雲雀さんは俯いた。深く静かに深呼吸する雲雀さん。今の雲雀さんはとても小さくか細く見えた。



「あ、の…!」

勇気を出して、発した雲雀さんを引きつける言葉。ダメツナの俺じゃ、何にもできないかも知れない。だけどこんな雲雀さんを前にしたんじゃ何かせずにはいられなかった。

「…俺じゃ、何も雲雀さんの役には立てませんかッ!?」

雲雀さんがディーノさんと付き合っているのは知っている。ディーノさんが嬉しそうにリボーンに話しているのを聞いたことがあった。俺何かより、ディーノさんの方がきっと何倍も…何十倍も…雲雀さんの傷を癒やすことができるんだろうけど…。

俺は、1ミリでもいい。俺が雲雀さんにできることをしたかった。(この感情が恋だとか愛だとか言うのを俺は知っているけど…口には出さない。)


「あ、りがとう。ほんとに、大、丈夫…だから。」

両手をつき俯いたまま少しこちらに顔を向けてくれた雲雀さんの、小さく笑う口元だけが見えた。無理して笑うその表情は明らかに大丈夫そうじゃなくて、辛そうで。雲雀さんはいつもこんな風に一人で悩みを抱えて凌いできたのかと思うと胸が苦しくなる。

こんなにも雲雀さんが苦しんでいるときにディーノさんは何をしてるのかと、雲雀さんに愛されているあの人を恨めしく思う。


「…俺じゃ、駄目ですか?」

何にも、微塵もあなたの役には立てないですか?


「俺が…ディーノさんじゃないから――。」

「――ッ!あの人のッ、あの人の名前、出さないで…。聞、きたくない…聞きたくないの…。」


雲雀さんは血相を変えて俺の方を振り返り、またその場にへたり込んで泣き始めた。両手で顔を隠すように泣きじゃくるその姿は、酷く傷ついた小鳥のようだ。

この様子から見て、雲雀さんを酷く傷つけたのがディーノさん本人であることがわかった。(こんなにも雲雀さんに愛されていると言うのに、そんなこの人を傷つけるだなんて許せない!)


原因が俺でないにしろ、また雲雀さんを泣かせてしまったのは俺な訳で…。少し凹んで黙っていると、雲雀さんが口を開いた。




「…ねぇ?」

パッと顔を上げて、雲雀さんに目をやる。涙は止まっていないけれど、何か吹っ切れたような微笑みがあった。

そして、そこにへたり込んだまま俺に両手を伸ばしてきた。









「君は…僕を愛してくれるの?」


突然の話に俺は唖然とするしかなかった。雲雀さんが何を言っているのかわからなかった。


「あの人を忘れられるぐらい…君は僕を愛して、満たしてくれるの?





僕を…抱いてよ?」




この言葉をきっかけに、俺と雲雀さんの関係が始まった。





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