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Reborn★Long
この世界で無くしたもの、得たもの【後編】
>>ディヒバ。シリアス後甘い。



あの日から、ディーノは毎日のように僕の所へ来るようになった。“楽しい”とか“嬉しい”とか、忘れてしまっていた僕の感情も少しずつ取り戻してきた。まだ上手くは笑えないけれど、まだディーノの前でしか感情を出せないけれど、僕は変わっていった。声は、相変わらず出ないけれど。

「なぁ、恭弥?」

ディーノが急に真剣な面持ちで僕の名前を呼ぶ。いつもとは様子の違う彼に違和感を抱きながらも、ディーノの表情を確認する。
僕の名前を呼んでおいて、ディーノは何も話さないし、僕の方を見ようともしない。重い空気のまま沈黙の時だけが流れていく。

漸く、口を開いたかと思いきや拍子の抜けた答えが返ってきた。

「…やっぱいいや。」

何でもない、とあやふやな返事。あんな表情しておいて、何でもない訳ないじゃないか。不機嫌そうに眉間に皺を刻んでいる僕をディーノが宥めにかかる。僕の頭を撫でるディーノ。…僕はそんなことで機嫌を直す程単純じゃないよ。

『言ッテ。』

僕は片膝を立てて、ディーノの胸倉を掴んだ。酷く驚いた様子で、畳に両手をつき、尻餅をついたディーノに僕の伝えたかったことはどうやら理解されていないみたいで…もう一度。

『言ッテ。話シテ。内緒ハ、嫌ダヨ…。』

今度は伝わった様子で、ディーノはとても困った顔をした。あなたにそんな顔はしてほしくなんてないけど、こればかりは僕も引き下がる気はなかった。

内緒が増えると、不安も増える。あなたにとっては僕なんてどうでもいい存在かも知れないけど、僕にとってあなたは――。……?

何故僕はこんなに焦っているんだろう。僕にとってあなたは、何なのだろう?このもやもやした感情がわからなくて、僕は不意にディーノの胸倉を解放した。自分がわからなくて、こんな感情は初めてで、色々と頭の中で戸惑っていたら、ディーノの僕を呼ぶ声にやっと我を取り戻した。

「…恭弥、どした?」

ディーノが心配そうな顔で僕を覗き込んでくる。暫く放心状態で焦点も定まらないままディーノを見てた。ディーノが僕の手を握ってくれて、やっと落ち着きを取り戻す。

『…何デモ、ナイ。』

何て言っていいかわかんなくて…話を反らそうと否定する。するとディーノの表情が少しだけ変わった。意地の悪そうな笑顔を見せる彼を横目に、僕はその場に座り込んだ。

「恭弥、“話して”み?内緒は俺も嫌だ。お前が言ったことだぜ?俺も話すから、な?」

揚げ足を取られた気分だった。少し悔しくて、ディーノを睨み付けるけど、ディーノはまったく気にしていない様子でヘラヘラと笑っている。

「分カンナイノ。」

一文字一文字ゆっくりと紡いでいく僕の透明な言葉をディーノが声に出して色を付けていく。現になる僕の言葉は僕の気持ち。ディーノは僕の言葉と気持ちを読み取っていく。

「デモ…ディーノガ僕カラ離レテイッチャウノハ、嫌。スゴク、怖イ。」

僕の全ての言葉に色が付いたとき、ディーノは僕を抱き寄せた。ビックリして、僕の鼓動は高鳴る。落ち着きを取り戻しても鳴り止まない僕の鼓動は、寧ろどんどん早くなっていく。何かの病気にかかってしまったのだろうか。

「恭弥…。今度は俺の話な。――お前を、俺にくれないか?」

僕の闇の世界に、突如現れた優しい太陽のような光。僕の人生を一変させる台詞。優しい声が、眩しい光が僕を包み込んだ。

「俺は、恭弥が好きだから…金でお前をここから買いたくはない。恭弥の意思で、決めていい。」

ディーノの言葉が意味するのは…所謂“駆け落ち”というもののことを言っているのだろう。ディーノと行くのか、ここに留まるのか。選択肢は二つに一つ。
今までは誰かに委ねてきた僕の人生の選択肢。生まれて初めて与えられた僕のこれからの選択肢。ディーノは僕の肩を掴んで、真っ直ぐに異色の瞳で僕を捕らえる。このとき学んだ一つの感情。

“好き”

僕は両の掌でディーノの頬を包み込み、接吻を交わす。接吻なんて今までに散々男達にされてきたけれど、僕自身からするのなんて初めてで…少し照れ臭い気持ちになった。

「…僕モ、ディーノガ好キ。僕ヲ連レテイッテ?」

ディーノの眩しい笑顔が僕の目に飛び込んでくる。たくさんの接吻を交わして、僕は今まで受けてこられなかった分の愛情を受ける様に、ディーノに強く抱きしめられた。

「恭弥、聞いて?明日の丑の刻に恭弥を迎えに来るから…初めて恭弥に会ったあの部屋の窓から顔出して?」

ディーノは僕を抱きしめたまま、僕の耳元で囁いた。僕はそのまま静かに頷く。クス、と小さく笑うディーノがとても愛おしくて、少しも離れたくはなかったけど、日本での仕事がまだ少し残っているということで名残惜しく口付け、ディーノの背中を見送った。

ディーノが帰ってからも相変わらず酷く僕を抱く客は後をたたなかったけど、幸せを手にした僕には、今までの僕との決別の儀式の様にも感じられた。

客もすっかりいなくなってシャマルがいつものようにあがりを告げに来た。僕を商品としか見ていなかったこいつだが、こんな僕を生かしてくれたのもこいつで。いつもなら振り向きもしないのに、僕はシャマルの方を見て少しだけ微笑んだ。それに驚いたシャマルは僕の方へと歩み寄った。

「お前…人間らしくなったな。」

くしゃ、と僕の髪を撫でてそう話す。あの異人が通い出してからだな、なんて笑って話すシャマル。そんなにも僕のことを見てくれていたのか、と少し胸が熱くなった。先程の客に付けられた痣や腫れに大きな手を添えてシャマルは続けた。

「お前をこんなにしちまった俺が、今更こんなことを言っても恩着せがましいかもしれねぇが…お前の人生だ。お前が決めていい。誰もお前の意見を否定する権利なんてねぇんだ。」

ディーノのことを言っているんだろうか。僕がいなくなれば、店の売上だって減るであろうに、シャマルはまるで僕の本当の親であるかのように背中を後押ししてくれる。僕は小さく頷いて、ありがとう、と礼を言った。





約束の時間が刻一刻と近付いて来る。荷物をまとめようにも、対して持って行く物も見つからず、僕は時間を持て余していた。いつディーノが来てもいいように窓を開け、外を眺める。この景色ともお別れかと思うと、ろくな思い出もあったものではなかったが心持ち寂しい気もしていた。



しかし約束の時間になっても、約束の時間が過ぎても、ディーノが窓の外に現れることはなかった…。



僕は寝ることもできずにただ呆然と窓の外に目を向ける。ディーノは来なかったが、だからといって涙が出ることはなかった。悲しいだなんて、思うこともできなかった。ただ…自分が情けなくて、虚しくて、格好悪くて。人を信じたあげくがこの様で。ただ孤独な闇の世界へと落ちていくだけだった。

そんなとき、慌ただしく階段を駆け登って来る音が何となく耳についた。あの足音はシャマル。だけどまだ仕事が始まるような時間じゃない。不思議に思った僕は勢いよく開いた襖を振り返る。

「――ッ、ヒバリッ!大変だッ!!」

普段取り乱したシャマルなんて見たことが無くて、少し違和感を覚える。息を荒げ、肩で呼吸をしながらシャマルは僕に話を続けた。

「港の方で、乱闘が起こってるらしい。その乱闘で、金髪の異人が打たれたってッ!」

シャマルの話を聞いた瞬間、血の気が一気に引いていった。わざわざ伝えに来てくれたシャマルに礼も言わずに僕は裸足のまま港へと走り出していた。

ただ胸騒ぎのする方へと足を進めて行く。潮の香が徐々に近付いて、海の見えるところまでやって来た。そのとき、微かに聞こえて来た銃声。その音に過剰に反応し、音のする方へと走り出す。



そこに小さく見えたのは、ディーノが話していたディーノの元先生で同業者であるというリボーンという男と、赤い血に塗れたディーノの後ろ姿。

一瞬、時が止まったかのような錯覚に陥る僕。そんな気持ちも払い除けて、僕はディーノの方へと走る。

ディーノを打ったと見られる黒い短髪の男と長い銀髪の男も手傷を負っているようで、赤い血の海が青く輝く海とは対称的に重く痛々しく目に映った。その男達は銃を至近距離でゆっくりとディーノに向けた。

「これで終いだ、跳ね馬。」

引き金に指をかける短髪の男と少し俯いたディーノ。もう、駄目かと思った。僕に大切なことをたくさん教えてくれた人が消えてしまうんじゃないかという、不吉な考えが脳裏を過ぎる。

僕は無意識に叫んでいた。

「――ノッ、ディ…ノ…ッ――ディーノッ!!!」

僕の声に一瞬隙を見せた短髪の男。その隙を見逃さなかったリボーンはディーノに向けられた銃を奪い取り、短髪の男に銃口を向けた。

「形勢逆転だぞ?奪った物を返せ。」

リボーンの言葉に男達は舌打ちをし、懐に入った箱を投げ返した。これで終わりだと思うなよ、と捨て台詞を残し、二人の男達は港につけていた船に飛び乗り姿を消した。



泣きそうな顔をしてディーノに駆け寄る僕に、驚いた顔をして僕を受け入れてくれるディーノ。

「ディーノ、怪我…ッ。打たれたって、聞いてッ、僕――ッ」

僕を落ち着かせようと、頭を優しく撫でてくれるディーノの明るい笑顔が僕の目に映る。この笑顔にまた出会えて、よかったと心の底から安堵した。

「腕に掠っただけだから、大丈夫。それより…恭弥、声――。」

あまりに必死すぎて、僕自身ディーノに言われるまで気付かなかった。全てがどうでもよくて、無くした声。それが、ディーノを失うことへの恐怖から蘇った。僕の世界が変わった証。

「その声のお陰で助かったんだからな。」

リボーンが僕に向かって不敵な笑みを浮かべる。ディーノもそれに釣られて笑顔を見せた。

「そうだな、ありがとう!よかったなッ!」

「僕も、ありがとう。」

僕の世界を照らしてくれたディーノにありがとう。
僕を必要としてくれたディーノにありがとう。

あなたに出会えたこの運命にありがとう。


僕が今まで生かされていた意味、生きてきた意味の全てはこの運命へと繋がっていたんだ。





*fin*




●ァトガキ●○●

長いことお付き合いいただきまして★
ありがとうございました(^∀-)-☆

こんな長編を書いたのは姫桃も初めてでございます!
ちょっと間を空けて仕上げたもので…;;
流れ的におかしいところがあったかと思われますが(^-^;
姫桃はそんなことも気にせずに、達成感でイッパィでございます★ワラ★

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