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Reborn★Short
Get Over
>>ディヒバ。シリアス。恭弥の過去捏造。




僕が自分で思っている以上に、



刻まれた傷は深かったみたいだ。




■Get Over■□■



雲雀恭弥。

並盛中学校風紀委員長にして最強の不良。そして俺の生徒。


そんな恭弥と恋人という形に成り得た俺。俺はもう成人で、恭弥は中学生。年の差とか国籍が違うとかマフィアのボスだとか、俺達の間には何かと壁がある。それでも、その全てを受け入れて俺は恭弥を愛していたし、大切にしたかった。

欲望のままに恭弥を抱きたくなんてなかった。そんなことで恭弥を傷つけたくなかった。この愛だけは…本当に大切にしたかったんだ。



その俺の想いは、反対に恭弥の傷を見えなくしていた。





****



「…広い部屋だね。」

無駄に、と恭弥は俺の滞在しているホテルの一室に率直過ぎる感想を一つ並べた。どんな奴にも媚びたり言葉を飾ったりしない恭弥を俺は尊敬さえしていたし、清々しいくらいだ。

俺は笑いながら恭弥を部屋に招き入れる。ドカッとベッドを陣取った恭弥は不敵に笑った。挑発的な恭弥の態度。俺を誘っているのか…俺を試してるのか。


ただ恭弥が俺の気持ちを受け入れてくれてからも、恭弥が俺を好きだと言ってくれてからも、恭弥が俺を警戒していることだけは確かだった。(計算なのか、無意識なのかは定かではないけれど…)



「…なぁ、恭弥?」
「何?」

俺を見上げる恭弥の顔は俺と一線引くような笑顔だった。俺を好きだと笑ってくれた恭弥がすごく嬉しかった。すごく愛おしい。

だからこそ、恭弥を傷つけるような真似だけはしたくなかった。


「俺は、恭弥を無理矢理抱いたりしたくないし、傷つけたりもしない。だから…信じてくれねぇかな?」
「――ッ、」

恭弥はビクッと体を震わせた。俺の言葉が恭弥を怖がらせてしまったと、俺は自己嫌悪に陥る。

ごめん、としゃがみ込んで恭弥の顔を覗き込み、手を恭弥の頬に当てる。すると恭弥はフルフルと首を横に振って俺の手を掴んだ。恭弥は切なげな笑顔を浮かべる。

「…あなたを、信じてない訳じゃないよ。ありがとう。」

ごめんね、と囁く恭弥。自分を追い込むような“ごめん”を言う恭弥に、胸が痛くなった。ギュッと恭弥を抱き締めると恭弥も抱き返してくれる。そんな恭弥が可愛くて、嬉しくて。恭弥を戒めている何かが恨めしい。





「恭弥、風呂入ってこいよ。」


今これ以上恭弥と一緒にいたら余計な詮索をしてしまいそうで、俺は恭弥に風呂を勧める。恭弥はうん、と小さく頷いて風呂場へと向かった。


恭弥を縛り付けている何かが気になったが、下手な詮索は恭弥を傷つけると思い、止める。頭を横に振って雑念を払う。モヤモヤした気持ちが収まると、ハッとあることに気付いた。

恭弥、バスタオルと着替えを持って行ってない。慌ててタオルを抱えて浴室の扉をノックもなしに開ける。




すると、そこにいたのは上半身だけ裸の恭弥だった。

恭弥の白い肌には赤や紫色の痛々しく夥しい数の傷や痣があった。







俺に気付いた恭弥の顔は見る見ると青ざめ強張っていく。俺は、言葉に詰まってしまった。






「…ッごめ――なさいッ、ごめん…なさいッ、――ごめッ…!」



いつも気丈で高飛車な恭弥が、頭を抱え込むようにその場にしゃがみ込み震えだす。嗚咽しながら謝り始める恭弥は何かに酷く怯えているようだった。恭弥は丸で泣くことを恐れているみたいに、泣かないように必死に堪えていた。


今まで見たことのない恭弥の姿に、俺は戸惑いを隠すことができない。



「き…恭弥、大丈夫だ。誰も怒ってねぇよ?」

優しく包み込むように、しゃがみ込む恭弥を抱き締め耳元で囁く。すると次第に恭弥の震えは止まっていく。ただ酷く汗をかいていて、無意識か俺の服の裾を強く握りしめて離さない。背中を撫でてやるとを最初は体を大きく強ばらせたが直ぐに安堵したようだった。

暫くそのまま恭弥を落ち着かせることに努める。きっと恭弥の中では葛藤が起こっている。何もできない自分の無力さに腹が立つ。





「…ディーノ、もう大丈夫。」

ありがとう、と顔色がよくないままの恭弥は無理矢理に笑顔を作っていた。

俺の羽織っていた上着を恭弥の肩にかけ、恭弥をベッドに移動させる。ゆっくりと寝転ばせようとすると座っていたい、と俺の服の裾を掴んだまま恭弥は呟いた。

「何か、飲む?」
「…ここに、いて。」


首を横に振る恭弥は俯いたまま強請る。恭弥の隣に座り恭弥の頭を俺の肩に引き寄せる。汗ばんだ髪を撫でてやると少しだけ恭弥の肩の力が抜けた。

何て声をかけていいのかわからないまま、沈黙だけが続いた。きっと結構な時間が二人の間に流れていた。








そんな沈黙を破ったのは恭弥だった。



「…驚いた?」

恭弥は自分を傷付けるように嘲笑う。弱さを見られたくないのか恭弥は決して泣き言を言わなかった。そしてゆっくりゆっくりと、恭弥の過去や恭弥を追い詰めている何かを話し出してくれた。


「…僕が小さい頃に、親から受けた暴力でできた傷なんだ。」

恭弥の口からは重たい過去が告げられていく。恭弥は肉親であるはずの親に暴力を受けていた、という事実。所謂、虐待という類のものだろう。恭弥は小さな体に、重たく大きすぎる冷たい過去をたった一人で抱えていたようだ。


これはあくまで俺の推測だけど…恭弥は周りの人間が怖くて、群れを作ることを極端に嫌っているんじゃねぇかと思った。怖くて、安心できなくて、一人を固持していたんじゃねぇかと思った。


もしそれが事実ならば…それは悲しすぎる。

望んで一人になっているのではなくて、人が怖くて一人になっているのならば…それは真の恭弥の思いではないのだから…。


「汚い、体でしょ?――ディーノ、だけには…見られたくなかったのッ。」

汚い僕を知られたくなかった、と声を詰まらせる恭弥を、俺は抱き締めずにはいられなかった。

再度震え始めた恭弥の体。恭弥を…苦しめている原因が俺にもあるんじゃねぇかと、いたたまれない気持ちになった。だけど、ここで俺が引き下がるのは何の解決にもならない。

“可哀想”だとか言う感情は恭弥に対して同情を表す思いでしかない。そうじゃなくて、ただ単純に恭弥と一緒にその“壁”を乗り越えたいと思ったんだ。


「汚くなんかねぇッ!俺はただ…、恭弥が苦しむ姿を見たくねぇんだ。」

恭弥が、心で泣いているのがわかった。必死に涙を堪えているのか激しく息が詰まらせる。俺には恭弥の顔は見えないのだから泣いても構わないのに、恭弥は決して泣くことはしなかった。


「なぁ、恭弥?思いっ切り泣いたって、泣き言言ったって、誰も恭弥を責めたりしねぇよ?」

一瞬、恭弥の体が強張った。でも直ぐに力が抜けた。


俺の言葉が、きちんと恭弥の胸に届いたみたいだ。


「――ふッ、ゥわー…んッ、ヒひッく…ッ、ディ、ノ」


恭弥がこんなにも泣いている姿を誰か見たことが、見ることがあるだろうか?今までに彼の中に溜まっていた何かが一気に溢れ出すかのように、恭弥は大声で泣いた。俺の背中に回された恭弥の腕にも力が込められ、恭弥の握った俺の服に深い皺が刻まれる。

ねぇディーノ、と縋るような声で恭弥は俺に思いをぶつけてくれた。








「――僕はッ、いらない子、だったのかな?」




初めて聞く恭弥の弱音。震える嗚咽混じりの恭弥の声は今にも消えそうで…とても切ない意味を持つ。

きっと…これが恭弥を苦しめていた何かの正体だ。愛情を注いでもらうはずの親から、愛情どころか暴力を受けていたなんて…子どもにとっては地獄だろう。


俺がどんなに恭弥を愛したって、親の代わりにはなれないし、恭弥の傷が癒えることはないかもしれない。



でも…



俺は恭弥を愛せずにはいられない。





「いらなくなんてねぇよ。恭弥を傷つけた親を、許せる程俺は寛大な奴じゃねぇけど…」


それでも…




「恭弥を生んでくれた親に、俺は感謝してるよ。」


俺の腕の中にいる恭弥に、この想いは伝わっただろうか?




恭弥はまた声を出して泣き始めた。感情的な恭弥は丸で子どものようで…子どもの頃の彼が、舞い戻って来たように見えた。



「…ディ、ノッ――あ、りがとう…ッ」



恭弥の詰まる声は最後に大好き、と愛を囁いて、次第に寝息へと変わっていった。







一生をかけたって癒やすことのできない傷かも知れない。


癒やすことが、たとえできなくとも…



二人なら乗り越えることはできると思う。





親の代わりにはなれないけど…



俺はそれ以上の愛で、恭弥を満たしていきたい。





*fin*




●ァトガキ●○●

お疲れ様です。

恭弥サンの過去を捏造しまくって申し訳ナィ…↓重い話になったくせに,最後ありきたり…(-_-;)

もっと泣けるように書きたい…。頑張りマス!

最後までお付き合い下さりありがとうございました★

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