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神様の意義
ハッピーエンド
 ハッピーエンドなんて有り得ないと思っていた。
 旦那の祐輔も浮気をしていたのは私も気づいていた。シャツから女物の香水が匂っていたし、残業と理由付けて、女と会っていたのも探偵付けで聞いていたし。私だって仕事が忙しくて、旦那のことを構ってやれなかったことも原因だということもわかっている。
 そう苛立っている時、私は会社の残業で帰ってきたのは夜中の12時を過ぎていた。ふと思って娘の実花の部屋を覗く。そこの実花のベッドの中に娘の実花と息子の姿があった。ベッドの横には着ていたと思われる服が散らかっていた。
 私は頭に血が上るのを感じた。これはなんだ。兄妹で、何をしていたんだ。
 私はベッドに近寄るとふたりが寝ている布団を剥がす。ふたりとも裸。なんなんだこれは。汚らわしい。私はとっさにそう思った。兄妹なのに、私の目の前で、一体何を…。
「実花! 修介!」
 私は思わず大声でふたりの名前を呼んだ。ふたりはとろんとした顔で目をうっすらと開ける。現状を理解するには早かった。ふたりは顔面蒼白になり、怯えた顔で私を見る。実花は起き上がると布団で体を隠し、修介は起き上がるが身動きひとつしない。
 私の頭の中には様々な言葉が巡っていた。全てが貶す言葉。なのに、ショックのあまり声が出ない。言いたいことは山ほどあるのに、ふたりの怯えた表情。
「汚らわしい」
 と、思わず口から出た。
「お母さんの目が届かないところであんたたちは何をしているの、汚らわしい。いつから、あんたたちはいつからお母さんを騙していたの。信じらんない、兄妹でセックスだなんて」
 実花が口を開ける。何か反抗する気なのか、私はふたりを睨みつけると、涙が溢れてきた。この子たちも、私を裏切っていた。
「おふくろ!」
「何よ、修介。どうせみんなお母さんなんかいない方がいいのでしょう。修介も実花も、親の目を盗んで何回もこういうことをしていたのでしょう」
 そう言いながら、視界の中に使い終わったコンドームが落ちていたことに気づく。汚い、汚い、汚い。
「あんたたちはお母さんがお腹を痛めてやっと産んだ子なの。何やっているのかわかるの。お母さんだって、他の子とそういうことするのは反対しないわ。なのになぜ実花なの、なぜ修介なの、相手は他に山ほどいるでしょう。なんで寄りによって兄妹なの」
「ごめんなさい、お母さん。でも私、本当に修介のこと愛しているの」
 実花が何を言っているのかが理解できなかった。修介? 今までお兄ちゃんと呼んでいたのに、愛してる? 子供の分際で。
「とにかく私は許しません」
 涙が止まらなかった。これ以上の裏切りはない。どうしても許せなかった。祐輔も、実花も、修介も、みんな私を裏切っていく。私の存在価値はあるのだろうか。
 私が台所に行くと、シンクの上に無造作に包丁が置いてあった。私は包丁を手にすると、手首に刃をあてがう。もう死んだっていいわ、どうせ、みんな喜ぶんだから、私なんかいなくていいのよ。そして、力を入れて手首を切った。飛び散る血。暖かい、私は倒れる、そして意識がだんだん遠ざかっていく。
 その中で、修介がおふくろと呼び私の腕を力を入れて止血をする。実花、実花、救急車を呼ぶんだ、早く……


 私が退院してしばらくして修介が家を出て行った。「行ってきます」のただ一言を添えて。それはあまりにもいきなりだった。
 実花は手紙を握りしめ、荷物のなくなった修介の部屋で泣きじゃくっていた。
 あれから実花は私を見ようとしなかった。何かに反抗するかのように、私が作ったご飯も口にしない。ただでさえ細い実花が更に細くなっていった。
 修介がいなくなってしばらくしてから、実花は突然姿を消した。置き手紙も何もない。ただ部屋にあった衣服類がなくなっただけだった。そのほかは何も変わらない。
 私は本格的にみんなに捨てられてしまった。あの時、死んでいれば、こんな孤独感、なかったのに。
 ハッピーエンドなんて有り得ない。私は包丁を再び手にした。手首にあてがうと、涙が次から次へと流れてくる。
 ハッピーエンドなんて有り得ない。


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